「日本インターネット医療協議会」の問題点を考える

平成14年3月19日改訂 (第5版)

文責: 安陪隆明

History

  1. 平成11年9月13日「第1版」上梓
  2. 平成11年10月14日「第2版」上梓
  3. 平成12年9月10日「第3版」上梓
  4. 平成13年6月3日「第4版」上梓

「日本インターネット医療協議会」の問題点を考える Part.1

以下に書かれていることは、この文章が書かれた平成14年3月19日現在の状況やWebページの内容に基づいて書かれています。

はじめに

「日本インターネット医療協議会」(http://www.jima.or.jp/)を名乗る団体が日本にはあり、マスコミでもこの団体の活動がたびたび紹介されることがあります。NHK、朝日新聞、共同通信などのマスコミにも取り上げられ、 「ホームページに統一マークを付け、利用者からの苦情があれば、 情報提供者側に対策を求めるなどの仲介に当たる」 「医者と患者のコミュニケーションをよくするためには、 情報の提供と利用に自主的なルールが必要だ。 インターネットを使う多くの人々の目でチェックしていきたい」 などと報道されました。一見大変素晴らしい組織に見えるのですが、その一方で、この会の活動に対してメーリングリスト上などで疑問視する声が少なからず出ています。いったいこの「日本インターネット医療協議会」のどこに問題があるのか、 その問題点をまとめてみたいと思います。

まずこの「日本インターネット医療協議会」なる団体の問題点として、大きく以下の点から整理して考えて行くことにします。

  1. 「NPO法人になることも検討しています」とは書かれているが、要するに何の権威付けもなされていない団体が、「トラストマーク」すなわち日本語に訳せば「信頼の印」なるものを各医療機関のWebページに貼ることに対して、医療機関1件あたり実質年間 10,000 円の使用料を徴収しているという問題点
  2. 「日本インターネット医療協議会」の提唱する「ガイドライン」に合格して「トラストマーク」を貼っているWebページには、学会でまったく認められていない治療を提唱しているWebページもあるという「ガイドライン」の内容の問題点

などの点を考えて行くことにします。

日本インターネット医療協議会とはいかなる組織か?

「日本インターネット医療協議会」という名称からは、日本の医療のインターネットにおける様々な面を協議する全国的な大きな会であろうという印象を持たれたり、また大変権威のある会ではないか、と想像される方も少なくないと思います。この名前ですが「日本インターネット医療協議会」は、その英語名を"Japan Internet Medical Association"と表記し、略記すると"JIMA"となります。これに対して「日本医師会」はその英語名を"Japan Medical Association"と書き、"JMA"と略記しますし、「アメリカ医師会」は"American Medical Association"で"AMA"と略記します。つまり英語の名前を見れば、「日本インターネット医師会」とまで読めてしまい、まるで「日本医師会」のインターネット面での下部組織と誤解されかねないような名前になっています。

ところで、http://www.jima.or.jp/faq.html#18 には まずこう書かれています。

Q18 JIMAはどのような活動団体ですか?

A JIMAは、非営利の民間の任意団体です。財団法人や社団法人のような公益法人ではありません。公平、中立を保つため、既存の組織、団体とは特別の利害関係を持たない第3者的な機関を目ざしています。なお、より安定した活動基盤を持ち、重要な社会的任務にこたえていくため、近い将来、「特定非営利活動促進法」によるNPO法人になることも検討しています。

というふうに「公平、中立を保つため」という理由で既存の組織、団体とは特別の利害関係を持たないとされています。

実際、この団体は「日本医師会」とも直接の関係がない団体ですし、「日本医療情報学会」の議論の中から生まれた団体でもありません。近年、日本医師会との連携を進めていこうという動きのある「全国医療情報システム連絡協議会」や「地域医療情報ネットワークシステム研究会」のような歴史のある医療とネットワークシステムを論じてきた会議での議論で生まれた団体でもありません。また日本のインターネットで全国的な各地域医師会の情報システム担当者が多く集まって議論している「広域医療情報研究会」のようなメーリングリストで議論されてできた団体でもありません。また厚生省の外郭団体のようなものでもありません。従来の歴史ある大きな医療情報関連の会議や集まりやメーリングリスト等とはまったく繋がりのない形で、平成10年6月27日に設立された団体なのです。

設立前に同会理事長の辰巳治之氏個人が、医療情報学会の前会長、副会長などと相談したという話や、日本医学会会長、厚生省、通産省、科学技術庁等ともDiscussionした、という話を同氏自身が広域医療情報研究会メーリングリスト上でされておられましたが、そこまでの話であり、医療情報学会や日本医学会や厚生省などが、組織として直接関わっているような団体ではないのです。

またそれでは、この団体が多くの人の支持を得て生まれた団体かというと、そういうわけでもなく、http://www.jima.or.jp/member.htmlを読むと、


正会員 インターネット医療に係る情報及びサービスの
提供を行い、又はこれを利用する医師
82名
準会員 インターネット医療に係る情報及びサービスの提供を
行い、又はこれを利用する医師以外の医療従事者
11名
一般会員 上記以外の個人 36名
賛助会員 本会の趣旨に賛同協力し、
理事会が認めた法人又は団体
10社

上記の表は平成14年3月19日現在のhttp://www.jima.or.jp/member.htmlのデータに基づいています。

という会員数となっています。つまり、「日本インターネット医療協議会」はその正会員(インターネット医療に係る情報及びサービスの提供を行い、又はこれを利用する医師)が、その設立から4年近くたった平成14年3月19日現在、全国でたった82名しかいない、という団体でしかないわけです。ちなみにインターネット上で医師が主である数百人レベルのメーリングリストや何らかの会は珍しくありません。これに対してマスコミ露出度が高く、特殊な分野に限るのではなくて医師、医療関係者全般を対象とし、インターネットで簡単に入会申し込みができる団体でありながら、82名の正会員しかいないという数字は極めて低い数字と言えるでしょう。

以上をまとめると「日本インターネット医療協議会」という(英語名からは「日本インターネット医師会」とまで読めてしまう)立派な名前の団体は、別に日本医師会や既存の権威のある学会の議論の中から生まれた団体でもありませんし、また特殊な分野に限るのではなくて医師、医療関係者全般を対象としているのにもかかわらず、全国で正会員82名では、とても全国の多くの医師から支持を得ているとは言えない団体、ということになります。

日本インターネット医療協議会の活動「トラストマーク」とは?

それではその活動を見てみることにしましょう。同会の活動は、平成13年6月1日から若干変更があります。まず設立当初から平成13年12月31日までの話ですが、医療情報を提供するWebサイトのあるべき姿について「ガイドライン」を提唱し、(http://www.jima.or.jp/jimaprinciple.html)、そしてそれを遵守している会員に対して「日本インターネット医療協議会指定マーク」(以下、「JIMAマーク」と略)をそのWebページに貼り付けるようにしてもらうという活動がもっとも特徴的でした。その後、平成13年6月1日よりこれに替わる「トラストマーク」の制度が平成13年6月1日より開始され、半年の移行期間を経て、平成13年12月31日で「JIMAマーク」の制度は完全に廃止され、平成14年1月1日をもって「トラストマーク」へ完全に移行しました。「JIMAマーク」と「トラストマーク」の違いですが、細かいところを挙げるときりがないのですが、大きな変更点をあげれば以下のようになります。

  1. 「JIMAマーク」は会費を払っている会員(正会員なら年5,000円の会費)のみに許されたマークであったが、「トラストマーク」は非会員も対象となり、その利用料として非会員は年1万円、会員は年5,000円とした。
  2. 「トラストマーク」を取得する条件として「セルフ・アセスメント情報」なるものを提出を義務づけた。
  3. マークを個々のサイトごとに管理する方式に変更した。

「JIMAマーク」と「トラストマーク」ではこのような違いがあるわけですが、基本的なコンセプトが変わったわけではありません。この「トラストマーク」の意味はhttp://www.jima.or.jp/trustguide/aboutmark.htmlに以下のように書かれています。

「主体者情報に記載されたものによって運営管理されている」というのは、難しい言い方ですが、誰かの名前を騙ってWebサイトが開かれているのではなく、本人が本当に運営していることをJIMAが保証している、ということを示します。(ただし、JIMAの保証にどれだけ信頼があるか、というのはまた別問題となります)

次に「JIMAが定めた医療情報発信者ガイドラインに従っている」ということをマークが示しているという部分が、一番重要なところです。このマークが示す「JIMAが定めた医療情報発信者ガイドライン」とはどのようなものかということが、http://www.jima.or.jp/trustguide/jimaprinciple.htmlに載っているのですが、このページは大変ややこしい内容ですので、それを解説します。まず

日本インターネット医療協議会では、インターネットを利用した医療情報の受発信において、提供された情報を利用者が有効で安全に利用できるよう、情報提供者が公正で責任ある情報発信に努める環境づくりを推進するため、「医療情報発信者ガイドライン」の策定をめざし、まず第一段階ステップとして、「医療情報発信時の利用者告知基準」を作成しました。

と書かれています。すなわちこれを読むと、『医療情報発信者ガイドライン」の第一段階ステップが「医療情報発信時の利用者告知基準」である』と解釈できます。その後に「医療情報発信時の利用者告知基準」が出てきます。

「医療情報発信時の利用者告知基準」


1 情報提供者の氏名又は名称、住所及び電話番号が明示されている。

2 電子メール又は電話、FAX等により掲示情報に対する問合せ窓口が設置されている。

3 営利、非営利の目的を問わずインターネットを利用してなされる、診断、治療、助言、相談等の行為を含む全ての情報の提供において、利用者が正しく情報を選択、利用できるよう以下のような配慮がなされている。

 (1)提供された情報の内容が、必ずしも常に正しく、すべてのものに有効とは限らないということが告知されている。

 (2)上記を踏まえ、情報利用の結果、万一利用者が不利益を被ったとしても、虚偽、または善意によらない意図を持って情報提供が行われた場合を除き、基本的には、利用者側の自由な選択、判断、意思に基づき情報の利用がなされたとみなす、いわゆる「情報利用における自己責任原則」が告知されている。

というわけで、ここまで読むと「JIMAが定めた医療情報発信者ガイドラインとはこういうものだな」とほとんどの方は解釈するのではないかと思います。実はここに問題の一つがあるのですが、それは後で解説するとして、その後にこのような記載が出てきます。

上記、利用者告知基準の表示様式は、平成13年6月1日からのJIMAトラストプログラムの開始に伴い、主体者情報の明示とサイト認証機能を有するJIMAトラストマークの使用と、認証画面または当該ウェブサイトからの医療情報利用の手引きへのリンク案内による注意喚起をもって代えられるものとします。

と出てきます。すなわちこの「利用者告知基準の表示様式」は、平成13年6月1日から「主体者情報の明示とサイト認証機能を有するJIMAトラストマークの使用と、認証画面または当該ウェブサイトからの医療情報利用の手引きへのリンク案内による注意喚起をもって代えられる」のだそうです。まるでこれを読むと、第2段階(第2ステップ)の「医療情報発信者ガイドライン」としてこれがあるような解釈をしてしまいがちですが、実はここも注意しないといけないところです。

まず、「JIMAが定めた医療情報発信者ガイドライン」と「医療情報発信時の利用者告知基準」の関係ですが、JIMA事務局の三谷博明はこのように説明しています。(http://www.jima.or.jp/jima/webforum/wforum.cgi?no=16&reno=6&oya=4&mode=msgview&page=0)

インターネットで医療情報を発信する時に情報発信者が留意してしてほしい点を「医療情報発信者ガイドライン」のかたちにまとめていきたいということで、まずその第一ステップとして、「利用者告知基準」をつくりました。「医療情報発信者ガイドライン」は「利用者告知基準」そのものでなく、あくまでもガイドラインの一部ととらえています。

その全体のガイドラインが、まだできないでないかという指摘もあろうかと思いますが、その内容をいろいろ検討している間に、重要な課題(情報の質、個人情報の扱い方、セキュリティの問題等)が次々出てきて、なかなかひとつにまとめきれないというのが実状でした。

これを読んで私は驚きました。「JIMAマーク」にしても、その後の「トラストマーク」にしても「遵守すべき倫理規範としてJIMAが定めた医療情報発信者ガイドラインに従っていることを示しています」ということが明記されています。にもかかわらず、その「医療情報発信者ガイドライン」が「まだできない」で、その「まだできない」ものに対して「トラストマーク」は「従っている」ということになります!? この点について三谷氏にさらに説明を求めたところ、以下のような答えが返ってきました。(http://www.jima.or.jp/jima/webforum/wforum.cgi?no=22&reno=17&oya=4&mode=msgview&page=0)

正確に言うならば、「医療情報発信者ガイドライン」は「利用者告知基準」で最終でなく、「利用者告知基準」を基本として、さらに情報発信の方法や情報開示の在り方等を示す全体的なガイドラインに発展していくことを念頭においている。その将来的なガイドラインから見ると、「利用者告知基準」は、その全体なガイドラインの一部になるものだろう、ということを言ったつもりです。

文脈を排して、この部分の文章表現だけを云々されるのであれば)確かに全体がないのに、その一部というのも変でしょう。「ない」ものまでを含めて、ガイドラインというのは、意味をなしませんので、強いていうと、「利用者告知基準」= 「医療情報発信者ガイドライン」ver.1ということでいいと思います。

「強いていうと」も何も、いやしくも「ガイドライン」と名乗り、しかもそれに従っているかどうかでマークが貼られるかどうかが決まり、さらにそのマーク使用料を徴収しているからには厳密性が要求されると思うのですが、このあたりが曖昧なようです。

さらに「主体者情報の明示とサイト認証機能を有するJIMAトラストマークの使用と、認証画面または当該ウェブサイトからの医療情報利用の手引きへのリンク案内による注意喚起をもって代えられる」というのは、第2段階(第2ステップ)の「医療情報発信者ガイドライン」というべきものなのか? という問題ですが、結論から言うとこれは違うそうです。実は当初、「利用者告知基準の表示様式」の部分は「利用者告知基準」という言葉そのものが書かれていたので、なおさらそのような解釈されるように思われたのですが、これはあくまで「利用者告知基準」の考え方は生きていて、それの「表示様式」が代えられるという意味なのだそうです。私がこの点を指摘したところ、「利用者告知基準の表示様式」という書き方に訂正されたのでした。

このようになってくると「いったいこのガイドラインの正式な定義はなんなんだ!?」と言いたくなってくるのですが、まとめると、『強いていうと、「利用者告知基準」= 「医療情報発信者ガイドライン」ver.1』なのであり、その「利用者告知基準」の「表示様式」として代えられるものが「主体者情報の明示とサイト認証機能を有するJIMAトラストマークの使用」と「認証画面または当該ウェブサイトからの医療情報利用の手引きへのリンク案内による注意喚起」ということになります。

ちなみに「トラストマーク」は「JIMAが定めた医療情報発信者ガイドラインに従っていること」を示しているのですが、その「ガイドライン」の「表示様式」として代えられるものが「トラストマークの使用」というのは、半ば堂々巡り的な感じもしますが、これについては追求せずにしておきます。もう一つ「ガイドライン」の「表示様式」として代えられるものが「医療情報利用の手引きへのリンク案内による注意喚起」になるわけですが、これがリンクされる場所というのが、http://www.jima.or.jp/trustguide/userguide1.htmlになります。この内容を見てみましょう。

インターネットの普及により、医療や健康に関する情報を簡単に発信したり利用できる時代になってきました。情報利用の便利さの反面、一方で十分に吟味されていない情報が安易に発信され、利用の仕方によっては思わぬトラブルに遭遇することも予想されます。実際の患者、家族、市民の方が医療や健康に関する情報を、どういうふうに利用すべきかのポイントを、「医療情報の利用の手引き」というかたちにまとめてみました。主にインターネット上での情報利用を想定していますが、インターネット以外の場で情報を利用する場合にも一般的にあてはまると考えています。

<どんな情報を利用するか・・・質の高い情報を利用する>

1 情報提供の主体が明確なサイトの情報を利用する

情報提供者の主体が明らかでない場合、情報の提供に伴う責任があいまいになり、掲載された情報の精度が低下しがちです。また、情報の利用に際して、トラブルが起こっても、十分な対応が期待できません。情報提供者の名前、所在地、連絡先が明示されていて、その実在が確認できることが重要です。

2 営利性のない情報を利用する

最新の科学的に見える情報であっても、情報提供の裏に物品の販売や特殊なサービス等の営利的な目的が隠されている場合があります。その情報提供によって、誰かが利益を得る仕組みになっていないかどうかを見極める注意が大事です。

3 客観的な裏付けがある科学的な情報を利用する

一見、専門的な情報に見えても、その内容が独断的で、科学的な理解を超えるような疑わしい情報には注意が必要です。関連する医学論文や記事、試験データが正確に引用されていて、きちんと科学的な裏付けがなされている情報かどうかを判断する必要があります。

4 公共の医療機関、公的研究機関により提供される医療情報を主に利用する

組織としての責任を重視する公共の医療機関、公的研究機関では、提供情報を委員会や複数の専門家が検証、吟味することにしています。このため客観性が高く、偏りが少ない情報源として利用するのに適しています。ただし、個人的な発信もあるため、どの範囲が公的な情報かを確かめる必要はあります。また、民間の中でも、客観的によく吟味されたことがわかる情報は、信頼性が高いといえるでしょう。

5 常に新しい情報を利用する

健康や医学に関する情報は日進月歩で進歩しています。最新の情報も更新されないままでいると、いつのまにか古い情報になって、その利用価値も変化していきます。掲載された情報が、いつ時点のものか、またいつ更新されたのかを常にチェックしていく必要があります。

6 複数の情報源を比較検討する

インターネット上ではいろいろな立場の人が、いろいろな考えをもって、情報発信をしています。同じテーマでも、立場によって見方が違ってきます。特定の情報だけを利用するのではなく、複数の情報を読み比べながら、自分に必要な情報を選び取っていく姿勢が大切です。

<どう利用するか・・・情報利用は自己責任で>

7 情報の利用は自己責任が原則

不特定の多数を相手に提供されている情報を利用して、万一利用者が不利益を被っても情報提供者の責任を問うことは難しくなってきます。「情報の利用は自己責任で」を基本に、冷静、慎重に情報を利用すべきでしょう。

8 疑問があれば、専門家のアドバイスを求める

インターネットなどで提供される医療情報の中には、現在の標準的な医療に合わないものや、科学的な根拠のあいまいなものがあったりします。最新の医学の成果をいち早く享受できるチャンスもありますが、反対に誤って自分の健康を損なう危険性もあります。提供された情報を鵜呑みにせず、常にリスクを考え、疑問があれば主治医など医療の専門家の意見を求め、適切なアドバイスを受けてください。

<情報利用の結果は・・・自ら検証する気持ちで、よりよい情報共有を>

9 情報利用の結果を冷静に評価する

情報は、その情報が実際に利用された時に、内容価値に対する評価が下されていきます。情報利用に際しては、情報の中身を自ら検証する気持ちをもって、また利用の結果に対しても、冷静かつ公平に評価が下せる余裕が必要です。

10 トラブルに遭った時は、専門家に相談する。

万一、医療情報を利用して、健康被害やトラブルを被った時は、ひとりで黙っていないで、医療の専門家、公的な相談センター、あるいは中立的な第三者機関に相談してください。すみやかな情報の提供が、次なる被害やトラブルの発生も未然に防ぎます。

全部で10の内容から成り立っていますが、この内容を一言で括ると、「利用者告知基準」に出てきた主体者情報の記載や、「情報利用における自己責任原則」という言葉そのものであり、これらをもう少し具体的に示したものということが言えます。結局『強いていうと、「利用者告知基準」= 「医療情報発信者ガイドライン」ver.1』というものの内容は、

  1. 情報提供者の氏名又は名称、住所及び電話番号が明示されている。
  2. 電子メール又は電話、FAX等により掲示情報に対する問合せ窓口が設置されている。
  3. 提供された情報の内容が、必ずしも常に正しく、すべてのものに有効とは限らないということが告知されている。
  4. 「情報利用における自己責任原則」が告知されている。

という内容にやはり帰着します。ここで気づくのはこれらはすべて「Webサイトの体裁」を問題にしているのであって、「医学的内容の良否」を問題にしているのではない、ということです。このことは、http://www.jima.or.jp/trustguide/trustprogram.htmlにもはっきりと、

<注意>

※このマークは、利用者に提供される情報、サービスの内容やその質を保証するものではありません。

と明言されています。すなわち、「トラストマーク」(日本語に直訳すれば「信頼の印」)が意味している「ガイドライン」とは、「Webサイトの体裁」を問題にしているのであって、「医学的内容の良否」を問題にしているのではないのです。

この「トラストマーク」の性質は「めまい治療にゾビラックスTM問題」で取り上げたWebサイトで、実際にその問題点を示すことになります。「学会で認めていない治療」について書かれているWebサイトでも、医学的内容に関係なく上記の「Webサイトの体裁」に従うことは容易であり、そしてその体裁を整えた上で、マーク使用料を年1万円(ちなみにこのWebサイトはJIMA会員のサイトですので年会費5,000円 + マーク使用料5,000円の合計1万円)を毎年払っていれば、「トラストマーク」(日本語に直訳すれば「信頼の印」)を貼ることが可能ですし、実際にそうなっています。

実を言うと「トラストマーク」を使用するためには、もう一つ「セルフ・アセスメント情報」なるものを提出が義務づけられています。これは自分のWebサイトの状態がどのようなものであるかをWebサイトの管理者が所定の項目に従ってチェックして提出するものです。例えば「SSL暗号化を採用しているページはどこか」とか「営利サービスの有無」などを管理者はチェックして提出するようになっています。しかしこれはただ単にそれだけの話です。この提出された「セルフ・アセスメント情報」は「審査」を受けるのですが、この「審査」なるもののの中身は以下のようになっています。(http://www.jima.or.jp/markkiyaku.html)

本会理事会は、上記の申請を受け、マークの掲示を希望するウェブサイトの内容について、セルフ・アセスメント情報を参考にしながら、所定の審査を行う。その結果、当該ウェブサイトにおいて提供される情報やサービスが、セルフ・アセスメント情報に相違せず、利用者の信頼を確保するに充分な要件を満たし、またその内容が日本国の関連法規並びに一般社会通念としての良識、あるいは内外に通用している医療・ヘルスケア分野での倫理規範に照らし疑義を有すると判断されることがない限り、マークの使用を許可するものとする。

いかめしそうなことが書かれていますが、「利用者の信頼を確保するに充分な要件を満たし、またその内容が日本国の関連法規並びに一般社会通念としての良識、あるいは内外に通用している医療・ヘルスケア分野での倫理規範に照らし疑義を有すると判断されることがない限り」などというのは、相当抽象的主観的な審査基準であり、既に「学会で認められていない治療」でも「利用者の信頼を確保するに充分な要件を満たし、またその内容が日本国の関連法規並びに一般社会通念としての良識、あるいは内外に通用している医療・ヘルスケア分野での倫理規範に照らし疑義を有すると判断されることがない」と判断されているという実例が存在します。(「めまい治療にゾビラックスTM問題」) この中で唯一、具体的客観的な審査基準は「当該ウェブサイトにおいて提供される情報やサービスが、セルフ・アセスメント情報に相違せず」という部分だけです。つまり「セルフ・アセスメント情報」の「内容」は実質的に問題にされていません。実際に各Webサイトのセルフ・アセスメント情報」(http://www.jima.or.jp/assessment/sform.cgi)を見ていただければわかりますが、SSL暗号化を採用しているページはどこか」というチェック項目があっても、別にSSL暗号化されているページがあろうがなかろうが、この「審査」には通過しています。「トラストマーク」の「セルフ・アセスメント情報」と、その「審査」とはこの程度のものなのです。

以上が「日本インターネット医療協議会」なるものが、年1万円の費用を徴収して、Webサイトに貼ることを認めている「トラストマーク」の、その「ガイドライン」なるものと「セルフ・アセスメント情報」なるものの中身なのです。

その他のインターネット医療協議会の活動

「日本インターネット医療協議会」はその他にも「研究活動」などを行い、それらがマスコミで発表されることは少なくありません。全国の医療機関のWebサイトを「調査研究」(http://www.jima.or.jp/PRESS/2000_4_10.html)したものがあるのですが、ここでは

「YAHOO! JAPAN」の「医学」の案内ページよりリンクでたどれる内科、小児科、皮膚科、精神科、脳神経外科の5科目から516のホームページを選び、提供されている医療情報について各科の複数の専門医による評価を行ったところ、内容面で、「問題あり」とされたのが7%あった。その理由については、「一般の人が誤って情報を利用する恐れがある」、「検証が不十分な情報を含んでいる」、「現在の標準的な医学からはずれている」、「内容的に偏っている、記載事項に誤りがある」等があげられた。

と公表し、これが読売新聞等のマスコミを通じて流されました。このマスコミに流される情報から得られる「日本インターネット医療協議会」のイメージは立派なものです。「現在の標準的な医学からはずれている」というWebページに対してもきちんと「問題あり」とする「研究報告」を公表しています。このような「日本インターネット医療協議会」の研究報告はよくマスコミで取り上げられています。しかし、ここから得られるイメージと、『「学会で認められていない治療」の書かれたWebサイトでも、マーク使用料を徴収して、「トラストマーク」(日本語に直訳すれば「信頼の印」)を貼ることを認める』という同会の活動の「落差」はいったい何なのでしょうか?

本当にこれでいいのか?

この「日本インターネット医療協議会」という名前の団体の出自が、日本医師会の下部組織であったり、日本医療情報学会や全国医療情報システム連絡協議会のような権威と歴史のある議論の中から生まれた団体であったり、また厚生労働省の外郭団体のようなものであればまだ問題にならないかもしれません。またこの医療情報を提供するWebサイトに対する「ガイドライン」が、日本医師会が決めたものであったり、日本医療情報学会や全国医療情報システム連絡協議会のような歴史や権威のある学会や研究会の議論で出てきた結論であったり、または厚生労働省やその外郭団体が出した結論であれば、まだ問題にならないかもしれません。しかし実態は、それらとまったくの直接的関係を持たない、そして全国に現時点でわずか82人の正会員しか持たない団体が、「日本インターネット医療協議会」という名前を名乗り、NHK、朝日新聞、共同通信などのマスコミに登場し、「日本インターネット医療協議会」の「ガイドライン」が、マスコミ上で発表されています。そして「ガイドライン」に適合した証明の「トラストマーク」(日本語に直訳すれば「信頼の印」)なるものは、マーク使用料を年1万円(または年会費5,000円 + マーク使用料を年5,000円)を払わなければ付けることができない、という現状があるわけです。

「ある組織に費用を払った上で、自院のWebサイトの品質を保証してもらう」という行為に対して、それをもっともだと思う人もおられるかと思いますが、少なくとも私には到底受容できない考え方です。これはまかり間違えば、「正しい評価をされるもされないも金次第」という恐ろしい方向へ向かってしまう危険性を孕んでいるからです。危険だからこそ「正当な権威」「明瞭な出自」といったものを持つことが評価する団体には必要なのですが、残念ながら「日本インターネット医療協議会」を名乗る組織がそれにふさわしいかどうかの確証がないわけです。

おそらくきっとこの「日本インターネット医療協議会」を名乗る団体を運営されておられる方達は、純粋にこの日本のインターネット上の医療情報を良くしようという気持ちから頑張っておられるのでしょう。しかし、このような会の体制では周囲からずっと誤解されますし、私自身も入会して協力しようなどという気にはなれません。「日本インターネット医療協議会」の運営体制について、再考を促したいと思います。

御意見等、E-mailの宛先はこちらです。

文責: 安陪隆明

昭和39年生まれ
昭和63年3月:鳥取大学医学部医学科卒業
同年4月:鳥取大学医学部第一内科入局
同年5月:医籍登録
平成6年4月〜平成11年3月:鳥取赤十字病院内科医師
現在、安陪内科医院院長


「Part.2 めまい治療にゾビラックスTM問題」


* ゾビラックスTMは、グラクソ・スミスクライン株式会社の登録商標です。

* 「ホームページ」という言葉には本来の定義と一般の用法に乖離がありますが、ここでは「日本インターネット医療協議会」側の「ホームページ」という言葉はそのまま引用し、当方の文章の方では「Webサイト」と「Webページ」という言葉で使い分けています。

* このWebページへのリンクは文責者の了解なしに自由にしていただいて結構です。


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