めまい治療にゾビラックスTM問題

「日本インターネット医療協議会」の問題点を考える Part.2

平成12年10月6日

文責: 安陪隆明

 この文章は平成12年10月6日に書かれたもので、 その時点でのWebページやその内容を基にしています。

 ここでは平成12年9月に経験した「めまい治療にゾビラックスTM問題」と、そこから得られた「日本インターネット医療協議会」のいくつもの問題点についてご説明したいと思います。

 平成12年9月5日、ある医療系メーリングリストに、「某週刊誌に『めまいの治療にはゾビラックスTMの投与が有効』という記事が載ったが本当だろう?」といった内容の投書がありました。ゾビラックスTMというのは抗ウィルス剤で、帯状疱疹といったウィルス性の疾患に対して用いられる薬剤です。これをある医師(以後、S医師とします)が「めまいの原因はウィルスである」という仮説の元に実際に患者さんにゾビラックスTMを投与して、高い治療成績を出した、と主張されておられるのでした。私は「本当だろうか?」と思い、翌平成12年9月6日の朝に、このことが書かれているWebページ(http://www.bekkoame.ne.jp/~ms-7/meniere.html)を見てみました。今ではこのWebページは内容が少し変わっていますが、その時、真っ先に目に飛び込んできたのは、Webページの一番トップに掲げられた「JIMAマーク」でした。まずページの一番トップに「JIMAマーク」があり、その右横にカウンターが続きます。そしてそれらの下に「めまい、耳鳴り、難聴(メニエール病とその周辺疾患)の新しい治療法」という表題が続き、その下に「ヘルペスウイルス感染症説」という副題が続き、そしてその下に「はじめに」というサブタイトルがあり、そして本文が続きます。この本文に「めまいの治療にはゾビラックスTM投与が有効」という内容が書かれていたわけです。最後の方でやっと「提供」としてS医師の名前が出てくるようなWebページの作りとなっており、冒頭には「JIMAマーク」はあってもS医師の名前がなかったため、まるで「JIMA」という組織が、この文章を提供しているかのような錯覚に陥るページ構成になっていました。

 ちなみに、「ゾビラックスTM」のメーカーである「グラクソ・ウェルカムグラクソ・スミスクライン株式会社」は「日本インターネット医療協議会」の賛助会員になっていますので、これだけ見るとまるで「グラクソ・ウェルカムグラクソ・スミスクライン株式会社」がこのページを支援しているようにも見えかねないページ構成になっていたとも言えます。

 早速、「日本インターネット医療協議会」の会員名簿のWebページ(http://www.jima.or.jp/member.html)を見たところ、確かにS医師の名前がこの会員名簿に出ており、S医師が「日本インターネット医療協議会」の会員であることを確認できました。

 S医師の仮説と治療については、京都大学医学部耳鼻咽喉科のWebページ(http://www.hs.m.kyoto-u.ac.jp/topics/meniere.html#6)が、これに対して否定的な見解を書かれておられます。めまいに対して門外漢の私には、S医師が画期的な大発見をしたのか、それとも間違いを犯しているのか、その判断はつきません。しかし確実に言えることは、S医師の仮説や治療は、現時点では学会等で一般に広く認められているものではなく、S医師独自の仮説であり治療であるということです。

 後で詳しく述べますが、「JIMAマーク」というのは、医療系Webサイトの内容の正否を問うものではありません。ですから、S医師独自の仮説と治療を訴えるWebサイトに「JIMAマーク」がついていても、「内容」という意味では「日本インターネット医療協議会の規約上は」問題のあることではありません。(もっともこれはこれで違和感があり、そのことについては後で解説します) しかし、「JIMAマーク」をつけるからには、その規約(http://www.jima.or.jp/markkiyaku.html)によると、

(5)マークからのリンク

マークからは、本会が定めるページ (http://www.jima.or.jp/jimalink.html) へのリンクを必ず設定するものとする。

(6)マークに併記すべき表示文

本会が情報利用者の安全確保のために定める「医療情報発信時の利用者告知」を所定の様式例にならって、マークに併記すべきものとする。

 という規約を守らなければなりません。そしてこの利用者告知とは、

(1)提供された情報の内容が、必ずしも常に正しく、すべてのものに有効とは限らないということが告知されている。

(2)上記を踏まえ、情報利用の結果、万一利用者が不利益を被ったとしても、虚偽、または善意によらない意図を持って情報提供が行われた場合を除き、基本的には、利用者側の自由な選択、判断、意思に基づき情報の利用がなされたとみなす、いわゆる「情報利用における自己責任原則」が告知されている。

 というものとなっています。
 ところが問題のWebページでは、「確信したからです」「貢献できたと考えております」といった断言的な表現は出てきますが、「JIMAマーク」を使う際に必要な利用者告知などはこの時点ではしていませんでした。また規約に定められたリンクも張られていませんでした。
 これは明らかに「JIMAマーク」を使う際の規約に違反しています。S医師が「JIMAマーク」を使う根拠、というものは、S医師が会費を払って「日本インターネット医療協議会」の会員になっている、ということだけになってしまいます。

 私はその日(平成12年9月6日)の昼に、この状況を指摘し、「これでは、やはりこの団体は、会費をとってJIMAマークを貼ることを許している団体と思われても仕方がないのではないでしょうか」と疑問を呈して、「日本インターネット医療協議会」の会員が何人もおられる医療系メーリングリストへ投稿しました。案の定、何人もの「日本インターネット医療協議会」の会員と、私や私と同様に同会の活動に疑問を持った医師達との間に激しい議論がまきおこりました。そして私がこの問題を指摘してから2日後の平成12年9月8日の夜に、問題のWebページ(http://www.bekkoame.ne.jp/~ms-7/meniere.html)から「JIMAマーク」が消え、代わりに同Webサイトのインデックスページ(http://www.bekkoame.ne.jp/~ms-7/index.html)の下の方に「JIMAマーク」が付けられました。その一方で「日本インターネット医療協議会」の会員名簿のページ(http://www.jima.or.jp/member.html)からS医師の名前は削除されることなく、それどころか平成12年9月12日にこの会員名簿のページから問題のS医師のWebサイトへリンクが張られたことを確認しました。ということは、やはり今でもS医師は「日本インターネット医療協議会」の会員であり、同協議会側の指導によってこのようなWebページの変更をされ、正式に「JIMAマーク」の使用を認められた、ということになります。

 今回の問題は、私が問題を提起して「日本インターネット医療協議会」の会員の方達と議論になってから2日目の夜に、問題のWebサイトが同協議会の規約に従ったこともあり、議論は一応鎮静化したのですが、この問題は「日本インターネット医療協議会」を称する団体が持ついくつもの問題点を改めて浮き彫りにしたように思われます。

1.会員のWebサイトに対する指導不足、状況把握の不足
2.説明責任は果たされているか?
3.問題のWebサイトは「日本インターネット医療協議会」の審査を通過したのか?
4.外部に発せられるイメージと実態の落差
- 「JIMAマーク」は優良Webサイトの証明か?  誰が責任を持つのか? -

1.会員のWebサイトに対する指導不足、状況把握の不足

 この時点での「日本インターネット医療協議会」が公表していた正会員の数は62名となっておりましたが、これだけの人数しか正会員がいないにも関わらず「日本インターネット医療協議会」には、一会員のWebサイトの把握ができていませんでした。私が問題のWebページを最初に見たとき、そのカウンターは34753を示していましたが、もしこのカウンターを信じるならば、私が指摘するまで約3万人以上の人が、明らかに「日本インターネット医療協議会」の規約に違反したWebページを、しかもそのトップに「JIMAマーク」が貼られて、まるで「日本インターネット医療協議会」がこのような主張をしているのではないかと錯覚するようなWebページを見ていた可能性があります。これだけ多くの人が見ていた可能性があり、しかもS医師は「日本インターネット医療協議会」の正会員であるにもかかわらず、同協議会は私が指摘するまでこのような状態に気が付かず、そして指導も行われず放置されていたということになります。(もし、気が付いていながら指導していなかったのだとしたら、もっと問題でしょう) つまり、自分のところの会員のWebサイトすら把握できていなかった、ということになります。

「日本インターネット医療協議会」は平成12年4月10日に「インターネット上の医療情報の提供と利用の実態に関する調査研究」という報告を発表しました。 (http://www.jima.or.jp/JISSEKI/kousei1999.html) この研究報告は読売新聞などのマスコミにも取り上げられました。このプレスリリース(http://www.jima.or.jp/PRESS/2000_4_10.html)によると、

インターネットの医療機関のホームページについて、発信主体者に関する情報の開示状況や個人情報の扱い方針の明示状況等について調査を行った。 対象は、大手検索Webサイトの「YAHOO! JAPAN」の「医学」の案内ページよりリンクでたどれる医療機関のホームページ1,147件。 このうち、発信者の氏名が明記されていないのが 26.1%、住所が明記されていないのが 11.2%あった。

と書かれています。全国の医療機関のWebサイトを千件以上も見渡して、その問題点を指摘するのは結構なことかもしれませんが、それだけ大がかりなことをしていながら、自らの会員のWebサイトの問題点は見つけられなかったのでしょうか?

2.説明責任は果たされているか?

「日本インターネット医療協議会」が平成11年3月19日に発表した 「インターネットの医療情報の利用状況に関するアンケート調査」(http://www.jima.or.jp/JISSEKI/riyoushakekka.html)では、

質問9
今までにインターネット上の医療・福祉関連の情報の利用や、情報の受発信、医療相談等においてあなた自身、不利益やトラブルを被ったことがありますか?

1.( 93.8% )ない
2.(  6.2% )ある

 (ある)と答えた方にさらに具体的な内容を尋ねたところ、以下のような回答があった。

○病気についてお聞きしたのに、そんなことを聞いてどうするのかと、すごく怒られた。
○誰でも利用できるとHPに書いてあったので、行ったのに、何の説明もなく、紹介状がないと言う理由で、お金を余分にとられそうになった。
○こちらは被害者なのに関連の商品の販売や紹介のメールが来たり気持ちが逆撫でされる。
○自分自身ではないが、障害児関係の相談を受ける中で、適切でない、もしくは科学的でない情報を受けているケースを見かける。
○個人の得た知識が共有される過程において、個人の主観や判断が入りこむため、結果的には不正確な情報になることがあること。販売を目的とした情報提供は必ずしも適切な情報提供だとは思えないものがあること。
○誤情報や思い込みによるメーリングリストや個人宛の反復するメール
○文句を言ってきた人がいた。確かにこっちも更新がいまいち遅れがちで最新の医療の事はふれていない。しかしお金をもらってHP作ってるわけではないので、自分の身の回りのことを犠牲にしてまではなかなかできない。
○私は一患者としてホームページを運営しています。患者の立場から喘息について情報発信しているのですが、専門家がその内容にケチをつけてくることがあります。好意からならいいのですが、たかが患者がという意識の強い 医師や製薬会社MRなどであるとこちらも喧嘩腰になります。それで今まで何人かの専門家とメールで激しい議論をしたことがあります。
○敢えてあるとしました。こちらが期待していた対応と、実際の医者の対応に大きくいちがいがあったからです。ホームページに対象疾患として掲げられていながら、医者がルーティンとしてあつかっている疾患でなかったためだと思います。MRI、X線の画像など参考になると思われるものは持参し、問診表にも受診の目的をはっきり書きましたが、それがかえって妨げになったようです。画像では確認できないはずの疾患の可能性について調べてもらいたいと思いましたが、画像上で確認できないものについてそれ以上の検査は必要ないと一蹴されてしまいました。対象疾患だけでなく、その疾患を扱う医師の名前も掲げる必要があると思います。
○患者同士のネット内で宗教的固定観念を持つ人がおり、他の患者を傷付けるよう発言をしたため不毛な論争をした。
○私自身特に不利益を被ってはいないが、患者同士が交流するための掲示板に患者以外の人からの悪意ある意見が出されたりして、不愉快な状況があった。
○医療相談をして初歩的な質問だったのか医師に怒られた。
○アトピー性皮膚炎で悩み続け、試しにインターネットで情報を集めてみましたが、こちらで必要な情報が分からなかったために、莫大なインターネット情報の取捨選択ができず、却って混乱しました。
○コメントを書き込む際に、自動的にIDが記入されるため、そのID(メールアドレス)を見て、DMやいかがわしいメールが届くようになった。
○誤情報や思い込みによるメーリングリストや個人宛のSPAMメール
○ある医院の医療情報データのねつ造への抗議をしたところ想像もできない異常なリアクションがあり、そのWebサイトで個人的な誹謗中傷をされた。

 などといった、一般の医療機関のインターネット上の医療情報を利用した際のトラブルの事例が数多く公表されています。
 ここで不思議に思うのは、「日本インターネット医療協議会」は、http://www.jima.or.jp/faq.html#4の中で、

利用者から当該ホームページに掲示された内容について、意見、苦情等がある時は、JIMAに対してオンライン上で意見投稿をすることができます。JIMAは、意見、苦情の内容をホームページの管理者に通知し、適宜回答を求め、必要に応じ意見提供者に連絡を行います。

 と書かれているにもかかわらず、同協議会が設立して2年以上たった現在、同協議会の会員のWebサイトにどういう意見、苦情等が寄せられたか、また、それに対してどう回答したか、ということを公表した報告が見あたらない、ということです。一般の医療機関のWebサイトについて寄せられた苦情についてはきちんと事細かく報告をしていながら、自らの会員のWebサイトにどういう苦情が寄せられたか、ということを公表した報告がまったく見つからないのです。
 これは「日本インターネット医療協議会」の会員のWebサイトは皆優秀で、2年以上たった現在でもまったく1件たりとも苦情がなかったのだろう、ということも推定できます。

 しかし今回、私は明らかに規約に違反したWebページを見つけ、そのことが元で、「日本インターネット医療協議会」の会員の方達と激しい議論をすることになりました。そしてその2日後(平成12年9月8日)に、問題のWebサイトは規約を守るように書き換えられたのでした。
 ところが「日本インターネット医療協議会」からは、問題が生じてから1ヶ月たった現在(平成12年10月6日)に至るまで、今回の問題について何の公式発表もなされていません。まともな一般常識を持った団体なら、「今回、規約を守っていない会員サイトがあり皆様をお騒がせしました。今後はこのようなことがなきよう指導に力を入れます」くらいのアナウンスがあって然るべきなのですが、まったく問題が存在しなかったかのように公式発表そのものがなされていないのです。

 先に示したように、「日本インターネット医療協議会」は、一般の医療機関のインターネット上の医療情報を利用した際のトラブルの事例を世間に事細かく「調査」して発表しています。それに対して、自らの会員のWebサイトが規約を違反していたことを報告する公式発表は現在(平成12年10月6日)に至るまでまったくなされていません。これは団体としての説明責任をきちんと果たしていると言えるのでしょうか?

3.問題のWebサイトは「日本インターネット医療協議会」の審査を通過したのか?

上記に示したように、問題のページは当初、「日本インターネット医療協議会マーク使用規約」(http://www.jima.or.jp/markkiyaku.html)に明らかに違反していました。この規約によると、

(1)使用許可申請

本会会員はマークを使用するにあたり、本会宛て使用許可申請を行うものとする。 この使用許可申請手続きは本会入会申込時 (入会申込書の中でマークの許可申請が可能) または入会後、所定のフォームによりできるものとする。

(2)審査

本会は、上記の申請を受け、 マークの掲示を希望するホームページの内容について情報内容を閲覧し、 その内容が関連法規並びに一般社会的な倫理基準に照らし 著しく違背していないことを確認した場合に限り、 マークを使用を許可するものとする。審査結果はE-mailにて通知する。

というふうに、使用許可を申請して審査を受けなければならないとされています。平成12年9月6日の時点で会員名簿のWebページ(http://www.jima.or.jp/member.html)から問題のS医師のページへ行くためのリンクはありませんでした。このWebページには、

リンクのあるホームページは、JIMAマークの使用が許可されています。

 と書かれていますから、これがきちんと審査を通過したものではないのではないかということが推定できました。
 ここまでは、S医師が「日本インターネット医療協議会」の規約を十分理解しておらず、また「日本インターネット医療協議会」もS医師の犯していた規約違反を把握できていなかった、というふうに推測することができます。
 さて、先に述べたように私がこの問題を指摘したのは平成12年9月6日の昼のことですが、その2日後の平成12年9月8日の夜に、このWebサイトが「利用者告知」などの規約を遵守するように変更されたことを確認しました。その一方で「日本インターネット医療協議会」の会員名簿のページ(http://www.jima.or.jp/member.html)からS医師の名前が削除されることはなく、それどころか平成12年9月12日、この会員名簿のページ(http://www.jima.or.jp/member.html)からS医師のWebサイトのインデックスページ(http://www.bekkoame.ne.jp/~ms-7/index.html)へとリンクが正式に設けられたことが確認されました。
 このことは、S医師が明らかな規約違反を犯しながらも、「日本インターネット医療協議会」の指導に応じたために会員として残されており、また「リンクのあるホームページは、JIMAマークの使用が許可されています」なのですから、「JIMAマーク」の使用も正式に許可されたと考えるほかはありません。つまり、審査をきちんと通ったと考えられるわけです。ということは、S医師の問題のWebページは「日本インターネット医療協議会」が、(http://www.jima.or.jp/markkiyaku.html)

その内容が関連法規並びに一般社会的な倫理基準に照らし著しく違背していないことを確認した場合に限り、マークを使用を許可するものとする。

 と認めたものということになります。
 学会が認めていないような標準的ではない治療について書かれたWebサイトでも、「関連法規並びに一般社会的な倫理基準に照らし著しく違背していない」ということは言えるかもしれません。しかし、ここに釈然としないものを感じるのは私だけでしょうか。

 先に述べた平成12年4月10日の「インターネット上の医療情報の提供と利用の実態に関する調査研究」のマスコミ向けのプレスリリース(http://www.jima.or.jp/PRESS/2000_4_10.html)によると、「日本インターネット医療協議会」は

「YAHOO! JAPAN」の「医学」の案内ページよりリンクでたどれる内科、小児科、皮膚科、精神科、脳神経外科の5科目から516のホームページを選び、提供されている医療情報について各科の複数の専門医による評価を行ったところ、内容面で、「問題あり」とされたのが7%あった。その理由については、「一般の人が誤って情報を利用する恐れがある」、「検証が不十分な情報を含んでいる」、「現在の標準的な医学からはずれている」、 「内容的に偏っている、記載事項に誤りがある」等があげられた。

 という「研究」も行い、これがマスコミで流されました。
 例えば、読売新聞などにもこれが「7%が「問題あり」とされた」「学会で十分認められていない特殊な療法を掲げたりしたものもあった」という言葉で掲載されました。
 全国の医療機関のWebサイトを評価して、「現在の標準的な医学からはずれている」というWebサイトを「問題あり」としているわけですが、それでは明らかに学会が認めていないような治療について書かれているS医師の問題のWebサイトも「現在の標準的な医学からはずれている」として「問題あり」なのではないのでしょうか?
 他の一般の医療機関のWebサイトについては「現在の標準的な医学からはずれている」「問題あり」とする報告を「日本インターネット医療協議会」の名前でマスコミに流しているのに、会費というお金を払っている自会員のWebサイトについては、S医師のように学会で認められていない治療を主張するWebサイトでも「JIMAマーク」を貼ることを認めているということになります。

4.外部に発せられるイメージと実態の落差
- 「JIMAマーク」は優良Webサイトの証明か?  誰が責任を持つのか? -

「日本インターネット医療協議会」は、その目的を(http://www.jima.or.jp/jima.html#jima1)、

本協議会はインターネット医療を利用してなされる医療(コメディカルも含む)、福祉、介護関連情報の提供、並びに相談、遠隔医療等のサービスの提供に際して、利用者の権利、利益を保護し、高度情報化社会にふさわしい価値あるサービスを提供、享受する環境を整備することにより、インターネット医療の健全なる推進発展をはかるとともに、ひいては国民の医療福祉の向上に貢献することを目的とします。

 と高らかに宣言しています。そしてこのような「日本インターネット医療協議会」の謳い文句はNHK、朝日新聞、共同通信などのマスコミにも取り上げられ、 「ホームページに統一マークを付け、利用者からの苦情があれば、情報提供者側に対策を求めるなどの仲介に当たる」 「医者と患者のコミュニケーションをよくするためには、情報の提供と利用に自主的なルールが必要だ。インターネットを使う多くの人々の目でチェックしていきたい」 などと報道されてきました。
 そしてまた先程も述べたように、全国の医療機関のWebサイトを「調査研究」(http://www.jima.or.jp/PRESS/2000_4_10.html)して、

「YAHOO! JAPAN」の「医学」の案内ページよりリンクでたどれる内科、小児科、皮膚科、精神科、脳神経外科の5科目から516のホームページを選び、提供されている医療情報について各科の複数の専門医による評価を行ったところ、内容面で、「問題あり」とされたのが7%あった。その理由については、「一般の人が誤って情報を利用する恐れがある」、「検証が不十分な情報を含んでいる」、「現在の標準的な医学からはずれている」、「内容的に偏っている、記載事項に誤りがある」等があげられた。

 と公表し、これが読売新聞等のマスコミを通じて流されました。
 このマスコミに流される情報から得られる「日本インターネット医療協議会」のイメージは立派なものです。「現在の標準的な医学からはずれている」というWebページに対してもきちんと「問題あり」とする「研究報告」を公表しています。

 また医療ネットワークの世界でも、このようなイメージで「日本インターネット医療協議会」を捉えられる方が少なからずおられます。例えば、http://www.nttdata.co.jp/profile/organ/riss/h10/theme1/theme1_3.html#jima などを読むと、

「(マーク)が付いている情報は一応、普通の情報である」
「それが付いていないのは、責任持ちませんよ」

 といった「日本インターネット医療協議会」に対する「捉え方」が出てきます。
 これは日本の医療ネットワークの世界で最も中心的な活動をされておられる先生の「捉え方」ですが、「日本インターネット医療協議会」がマスコミ等外部に向けられた「イメージ」を見た人も、おそらくやはりこれと大同小異の捉え方をされてしまわれる可能性があります。

 それでは実際に、「JIMAマーク」が付いているのは「普通の情報」なのでしょうか? そして「JIMAマーク」が付いているWebサイトに「日本インターネット医療協議会」は「責任」を持っているのでしょうか?

 まず、「普通の情報」についてですが、この場合の「普通の情報」とは、現在の医学の一般的標準的な学説や治療についてきちんと書かれているWebサイトで、怪しげであったり間違いがあるような学説や治療について書かれているWebサイトではないもの、というふうに捉えられる方が大半なのではないでしょうか。
「日本インターネット医療協議会」のWebサイトの中からは「普通の情報」という言葉を見つけることができませんでしたが、それと同様のニュアンスを持つであろう言葉として「優良サイト」という言葉が出て来ます。ですから上記の言葉を、「(マーク)が付いている情報は一応、優良サイトである」かどうか、という問題に置き換えることができると思うのですが、これについては「日本インターネット医療協議会」自身がはっきりと、そのFAQ(http://www.jima.or.jp/faq.html#5)の中で、以下のように書かれています。

Q5 指定マークがついているということは、優良サイトであるということですか?

A 指定マークがついているということは、サイトの優良性や情報内容の質を保証するものではありません。JIMAの活動趣旨に賛同している、またJIMA会員であることの表現であって、提供情報の価値をあらわすものではありません。マークをつけることにより、第3者の注意、関心を受けとめ、より質の高いサイトを目指しているということを示すものであります。当然、マークを掲示していなくても、質の高いサイトは数多くあります。マークを掲示していないことが、そのサイトが優良でないことを示唆、暗示するものではありません。

 つまり、問題のS医師のページも「サイトの優良性や情報内容の質を保証するものではありません」から、別にそれに「JIMAマーク」がついていても何の問題もない、というふうにもし主張されても論理的には間違ってはいません。

 問題のS医師のページは、恐らく「日本インターネット医療協議会」の指導により、私が問題を指摘してから2日後に、利用者告知を載せるなど同協議会の規約に沿った形で訂正されたわけですが、しかし、訂正されたら訂正されたで、このWebサイトに関してまた別な違和感を感じるようになりました。それは、http://www.bekkoame.ne.jp/~ms-7/meniere.htmlの方には

一日も早く一人でも多くの患者さんがこの治療法で苦しみから解放されることを願っております。また一日も早く他の医師が追試して(同じことをほかの施設で行うこと)して、この治療法が公に認められ、患者さんが救済されることを強く願っております。

 と断言的に書かれているのに対し、このWebサイトのインデックスページ(http://www.bekkoame.ne.jp/~ms-7/index.html)の下の方には、小さな字で

掲示された情報の内容は、よく吟味、点検されたものではありますが、必ずしも常にその確実性が保証されるものではありません。また、病気の診断、治療、その他医学的分野において、提供された情報が、必ずしもすべての方に有効とは限りません。情報の利用は、利用者自身の自由な判断、意思のもとになさるべきものであります。万一、情報の利用の結果、利用者において不都合、不利益が発生することがあっても、情報の提供者側は最終的な責任は負えないことをご了解の上、慎重に利用いただきますようお願いします。

 という利用者告知がなされているからです。
 ちなみにこの利用者告知は「日本インターネット医療協議会」の「マーク&利用者告知の表示様式例」(http://www.jima.or.jp/youshikirei.html)をそのまま持って来たと言えるものになっています。
 一方で「強く願っております」と断言的なことを書いておきながら、一方で「最終的な責任は負えない」「慎重に利用いただきますようお願いします」とインデックスページの下の方に書く… 要するに「私はこの治療法を他の医師が追試することを強く願っておりますが、この利用の結果、不都合、不利益が発生することがあっても、私は最終的な責任は負いません」と言っていることに等しいわけで、このことに私は違和感を感じるのです。

 つまり「マークが付いていないのは、責任持ちませんよ」ではなくて、最初から「JIMAマーク」がついていても「情報の提供者側は最終的な責任は負えない」と言っているのです。というよりも「情報の提供者側は最終的な責任は負えない」などと書くことが「JIMAマーク」を付ける一種の条件になっているわけです。また「情報の提供者側は最終的な責任は負えない」のなら、それでは「日本インターネット医療協議会」側が責任を持つのか? ということになると、http://www.jima.or.jp/faq.html#4の中で、

利用者から当該ホームページに掲示された内容について、意見、苦情等がある時は、JIMAに対してオンライン上で意見投稿をすることができます。JIMAは、意見、苦情の内容をホームページの管理者に通知し、適宜回答を求め、必要に応じ意見提供者に連絡を行います。(ただし、情報の利用をめぐる問題の解決は当事者どうしによる解決を原則とします)

 と述べられています。これをまとめると、苦情がある場合、情報提供者側に「通知」して「適宜回答を求め」るけれども、「情報の利用をめぐる問題の解決は当事者どうしによる解決を原則とします」と言っているわけです。「日本インターネット医療協議会」側はあくまで連絡役であって、マークがついているものの内容まで責任を持つわけではないということになります。

 要するに「JIMAマーク」を貼るということは、会費というお金を払った情報の提供者側が「情報の提供者側は最終的な責任は負えない」ということを宣言することによって責任回避し、「日本インターネット医療協議会」側も、あくまで連絡役であって、「情報の利用をめぐる問題の解決は当事者どうしによる解決を原則とします」、と主張している証明でしかないということになります。これでは、「会費というお金を払えば、内容に問題のあることをWebページに書いても責任を回避できる」というような卑小な目的に利用されてしまう危険性がないとは言えません。

「日本インターネット医療協議会」そのFAQ(http://www.jima.or.jp/faq.html#2)の中で以下のように述べています。

Q2 具体的にどういう活動を行うのですか?

A 主に医療情報の発信主体である医療機関が、責任ある情報発信を行えるよう情報発信時のガイドラインをつくり、これの普及、実行を呼び掛けるとともに、指定マークにより、万が一、情報内容に問題があると第三者が感じた時は、当協議会を通じてクレームや意見提示ができるシステムを運用していきます。また、情報利用者には、医療情報を安全に利用するための手引きを作成提供し、実際の利用をめぐるトラブル事例を収集しながら、問題点を分析し、よりよい情報提供のあり方、利用方法を研究していきます。特に、今後、重要となる個人情報の取扱いやセキュリティの問題についても、利用者の立場からあるべき対応法について積極的に研究、提言をしていきます。さらに、インターネットの医療面でのより有効的な利用法を研究、開発し、ハード、ソフト両面での利用環境づくりの推進をめざしています。

 ここでは「医療情報の発信主体である医療機関が、責任ある情報発信を行えるよう」「情報発信時のガイドライン」「指定マーク」があるように書かれているのですが、しかしその「情報発信時のガイドライン」「指定マーク」である「JIMAマーク」は、既に見て来たように、情報を発信する側が「最終的な責任は負えない」「情報利用における自己責任原則」を告知するものとなっています…つまり、「責任ある情報発信」のための方法とは、「最終的な責任は負えない」と責任回避することを告知することである、という私のような人間には理解不可能な論理がここに現れています。

 インターネット上の医療情報に対して、誰がどこまで責任を持つのか? というのは難しい問題ですが、その責任の所在、分担、範囲という問題がはっきりしなければ、「医療情報を安全に利用する」ということは大変困難になります。しかし、この「誰がどこまで責任を持つのか?」という問題に対して、「日本インターネット医療協議会」の論理は半ば矛盾を来しています。そして、「現在の標準的な医学からはずれている」Webサイトに対して「JIMAマーク」を貼ることが認められている、という現実が存在します。

 マスコミに流される情報から得られる「日本インターネット医療協議会」のイメージは大変立派なものです。五百以上もの一般の医療機関のWebサイトを「調査」し、「現在の標準的な医学からはずれている」というWebサイトに対してもきちんと「問題あり」とする「研究報告」をマスコミを通じて公表しています。
 ところが、その「日本インターネット医療協議会」のマークである「JIMAマーク」は優良サイトの証明かというと、FAQの中には「JIMAマーク」が「Webサイトの優良性や情報内容の質を保証するものではありません」と明記されています。そして「JIMAマーク」を貼ってあるWebサイトとは、同協議会に会費を払っている情報の提供者側が「情報の提供者側は最終的な責任は負えない」ということを宣言することによって責任回避し、「日本インターネット医療協議会」側も、あくまで連絡役であって「情報の利用をめぐる問題の解決は当事者どうしによる解決を原則とします」と主張している証明でしかないようです。そして実際に、学会で認められていないような医学仮説や治療を書いているWebサイトに対しても、会費というお金を払っている会員に対して、この「JIMAマーク」は認められています。
 このイメージと実態の落差はいったい何なのでしょうか? もちろん間違ったイメージで捉えた相手に対して「勝手に誤解する方が悪い」という主張がもしなされても、論理的には間違っていません。しかしこれに釈然としないものを感じるのは私だけなのでしょうか?

 インターネット上の医療情報がどうあるべきか、ということは、いろいろな学会、研究会、集まりなどでもいろいろな議論がなされることがあります。それらを大きく分けると、「きちんとした公的もしくは準公的な機関や方法で規制を考えるべきだ」という意見と、「インターネット上の情報そのものが本質的に規制に馴染まない」という意見に別れるような気がします。一方は「規制強化」の方向であり、また一方は規制をせずに情報を利用する側の「自己責任」の原則を重視するという逆の方向です。この2つのどちらの考えが正しいのか、というのは難しい問題なのですが、一つ言えることは、どちらの立場に立つとしても、今の「日本インターネット医療協議会」のような方法には問題があるのではないかと、感じざるをえないことです。
「日本インターネット医療協議会」は、一般の医療機関のWebサイトの一部について「現在の標準的な医学からはずれている」といった「研究報告」を出されたり、「日本インターネット医療協議会」という立派そうな団体名そのものがマスコミ等を通じて出されるなどされて、一見まるで「規制強化」的な方向の印象を「日本インターネット医療協議会」に対して持ってしまいそうです。しかし、実際には会費というお金を払っている会員に対して審査して許可する「JIMAマーク」は、逆に情報を利用する側の「自己責任」の原則の方を訴えているにすぎません。このイメージと実態の方向性が逆というのは問題なのではないでしょうか。
 単に情報を利用する側の「自己責任」の原則を重視する団体であるのならば、「JIMAマーク」というのはやめて、「この医療情報の利用は、自らの判断の責任の元に行って下さい」という憲章が書かれた「バナー」をWebページに貼る運動をすればいいだけの話だと思います。Webページでは、ある主義主張に感銘した人が同じ「バナー」を貼るというのはよくあることですし、これだとお金もかかりません。何故このようなことをせずに、突然「日本インターネット医療協議会」という会が立ち上がり、会員を集めて会費をとり、「JIMAマーク」なるものを貼るにふさわしいかどうか審査しているのか、そのあたりが私には不思議に思えます。
 しかもその「研究」活動では、他の一般の医療機関のWebサイトについての苦情を集めたり、「現在の標準的な医学からはずれている」Webサイトは問題があると言っておきながら、その一方で、会員による明らかなマーク規約違反の事件については公表せず、また明らかに「現在の標準的な医学からはずれている」仮説や治療について書かれたWebサイトについても会費を払った会員に対しては「JIMAマーク」を認めています。こういった「日本インターネット医療協議会」の活動を不思議に思うのは私だけなのでしょうか?

 今回の「めまい治療にゾビラックスTM問題」は改めて「日本インターネット医療協議会」という名前の団体の問題点をいくつも浮かび上がらせたように思われます。

文責: 安陪隆明(平成12年10月6日)
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* ゾビラックスTMは、グラクソ・ウェルカムグラクソ・スミスクライン株式会社の登録商標です。

* 「ホームページ」という言葉には本来の定義と一般の用法に乖離がありますが、ここでは「日本インターネット医療協議会」側の「ホームページ」という言葉はそのまま引用し、当方の文章の方では「Webサイト」と「Webページ」という言葉で使い分けています。


平成12年12月にグラクソ・ウェルカム株式会社はスミスクライン・ビーチャム株式会社と合併し、グラクソ・スミスクライン株式会社となったため、社名を修正いたしました。


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