「日本インターネット医療協議会」の問題点を考える

平成12年9月10日改訂


History




この文章は 平成11年9月13日に書かれた文章平成11年10月14日に書かれた文章を、 平成12年9月10日に改訂したもので、 その時点でのWebページやその内容を基にしています。


「日本インターネット医療協議会」(http://www.jima.or.jp/)を 名乗る団体が日本にはあり、マスコミでもこの団体の活動がたびたび 紹介されることがあります。 NHK、朝日新聞、共同通信などのマスコミにも取り上げられ、 「ホームページに統一マークを付け、利用者からの苦情があれば、 情報提供者側に対策を求めるなどの仲介に当たる」 「医者と患者のコミュニケーションをよくするためには、 情報の提供と利用に自主的なルールが必要だ。 インターネットを使う多くの人々の目でチェックしていきたい」 などと報道されました。
 一見大変素晴らしい組織に見えるのですが、その一方で、 この会の活動に対して メーリングリスト上などで疑問視する声が少なからず出ています。
 いったいこの「日本インターネット医療協議会」のどこに問題があるのか、 その問題点をまとめてみたいと思います。

「日本インターネット医療協議会」という名称からは、 日本の医療のインターネットにおける様々な面を協議する 全国的な大きな会であろうという印象を持たれたり、 また大変権威のある会ではないか、 と想像される方も少なくないと思います。
 この名前ですが「日本インターネット医療協議会」は、その英語名を "Japan Internet Medical Association"と表記し、略記すると "JIMA"となります。これに対して「日本医師会」はその英語名を "Japan Medical Association"と書き、"JMA"と 略記しますし、「アメリカ医師会」は"American Medical Association" で"AMA"と略記します。つまり英語の名前を見れば、 「日本インターネット医師会」とまで読めてしまうわけです。
 この名前だけ見ると、まるで「日本医師会」のインターネット面での 下部組織と誤解されかねないような名前になっています。
 ところで、http://www.jima.or.jp/faq.html#13 には まずこう書かれています。

Q13 既存の組織、団体との関係は?

A 公平、中立を保つため、既存の組織、団体とは特別の
利害関係を持たない第三者的な機関を目指しています。行
政の外郭団体でも、既存の各種団体に関係する団体でもあ
りません。

 というふうに「公平、中立を保つため」という理由で 既存の組織、団体とは特別の利害関係を持たないとされています。 実際、この団体は「日本医師会」とも直接の関係がない団体ですし、 「日本医療情報学会」の議論の中から生まれた団体でもありません。 近年、日本医師会との連携を進めていこうという動きのある 「全国医療情報システム連絡協議会」や 「地域医療情報ネットワークシステム研究会」のような歴史のある 医療とネットワークシステムを論じてきた会議での議論で生まれた団体でも ありません。また日本のインターネットで全国的な各地域医師会の 情報システム担当者が多く集まって議論している 「広域医療情報研究会」(himedaruma)のようなメーリングリストで 議論されてできた団体でもありません。 また厚生省の外郭団体のようなものでもありません。
 従来の歴史ある大きな医療情報関連の会議や集まりやメーリングリスト等 とはまったく繋がりのない形で、平成10年6月27日に設立された、 まだ設立して2年ちょっとという団体なのです。
 設立前に同会理事長の辰巳治之氏個人が、 医療情報学会の前会長、副会長などと相談したという話や、 日本医学会会長、厚生省、通産省、科学技術庁等ともDiscussionした、 という話を同氏自身が広域医療情報研究会(himedaruma) メーリングリスト上でされておられましたが、そこまでの話であり、 医療情報学会や日本医学会や厚生省などが、 組織として直接関わっているような団体ではないのです。
 またそれでは、この団体が多くの人の支持を得て生まれた団体か というと、そういうわけでもなく、http://www.jima.or.jp/member.html を読むと、


正会員 インターネット医療に係る情報及びサービスの
提供を行い、又はこれを利用する医師
62名
準会員 インターネット医療に係る情報及びサービスの提供を
行い、又はこれを利用する医師以外の医療従事者
11名
一般会員 上記以外の個人 27名
賛助会員 本会の趣旨に賛同協力し、
理事会が認めた法人又は団体
9社

上記の表は平成12年9月10日現在の http://www.jima.or.jp/member.htmlのデータに基づいています。


という会員数となっています。つまり、 「日本インターネット医療協議会」はその正会員 (インターネット医療に係る情報及びサービスの提供を行い、 又はこれを利用する医師)が、その設立から2年ちょっとたった 平成12年9月10日現在、全国でたった62名しかいない、 という団体であるわけです。
 以上をまとめると「日本インターネット医療協議会」という (英語名からは「日本インターネット医師会」とまで読めてしまう) 立派な名前の団体は、別に日本医師会や既存の権威のある学会の議論の 中から生まれた団体でもありませんし、また全国で正会員62名では、とても 全国の多くの医師から支持を得ているとは言えない団体、 ということになります。

それではその活動を見てみることにしましょう。 この会の活動の特徴は、まず医療情報を提供するホームページの あるべき姿について「ガイドライン」を提唱し、 (http://www.jima.or.jp/jimaprinciple.html) そしてそれを遵守している会員に対して 「日本インターネット医療協議会指定マーク」(以下、JIMAマークと略) をそのホームページに貼り付けるようにしている、という点です。 (http://www.jima.or.jp/youshikirei.html) (http://www.jima.or.jp/jimalink.html)
 この医療情報を提供するホームページに対する「ガイドライン」は 以下のようになっています。 (http://www.jima.or.jp/jimaprinciple.html より)

医療情報発信者ガイドライン

日本インターネット医療協議会では、 インターネットを利用した医療情報の受発信において、 提供された情報を利用者が有効で安全に利用できるよう、 情報提供者が公正で責任ある情報発信に努める環境づくりを推進するため、 「医療情報発信者ガイドライン」の策定をめざし、 まず第一段階ステップとして、 「医療情報発信時の利用者告知基準」を作成しました。 当協議会では、当協議会会員だけでなく、一般の医療情報提供者が、 これに準じた案内告知を行っていただくことを呼び掛けています。

以下に、この「利用者告知基準」の細則を記します。

「医療情報発信時の利用者告知基準」

1 情報提供者の氏名又は名称、住所及び電話番号が明示されている。

2 電子メール又は電話、FAX等により掲示情報に対する問合せ窓口が 設置されている。

3 営利、非営利の目的を問わずインターネットを利用してなされる、 診断、治療、助言、相談等の行為を含む全ての情報の提供において、 利用者が正しく情報を選択、利用できるよう以下のような配慮がなされている。

 (1)提供された情報の内容が、必ずしも常に正しく、 すべてのものに有効とは限らないということが告知されている。

 (2)上記を踏まえ、情報利用の結果、万一利用者が不利益を被ったとしても、 虚偽、または善意によらない意図を持って情報提供が行われた場合を除き、 基本的には、利用者側の自由な選択、判断、 意思に基づき情報の利用がなされたとみなす、いわゆる 「情報利用における自己責任原則」が告知されている。

 まだ「第一段階ステップ」「医療情報発信時の利用者告知基準」しか出ていませんが、 個人的にはこの内容は大変緩やかな、誰もが簡単に守ることができる 内容であるように思えます。 「ガイドライン」というといかめしく聞こえますが、 特に医学内容の正否を問うわけでもなく、 「ガイドライン」と言えば「ガイドライン」ではあるのですが、 「様式」という言葉の方が近いのではないかと思われる内容です。 学会で認められていないような治療について書かれたWebページでも この「ガイドライン」に従うことができるわけで、 実際そういうWebページも出て来ました。 (http://www.bekkoame.ne.jp/~ms-7/index.html)
 なお「日本インターネット医療協議会」を称する団体が設立されて 2年ちょっとたったわけですが、現在もまだこの「第一段階ステップ」 のままです
 そしてここで注意したいのは、医療情報を提供するホームページの 「ガイドライン」が、このようなものであるべきだ、という結論は、 今まで日本医師会が出したわけでもなく、 日本医療情報学会が出したわけでもなく、 その他、全国医療情報システム連絡協議会のような歴史や権威のある 学会や研究会が出した結論でもないということです。 また厚生省やその外郭団体が出した結論でもないのです。 ただこの「日本インターネット医療協議会」という名前の、 従来の既存の組織と直接の関係がない、 設立されて2年ちょっとで、全国でたった62名しか正会員を持たない団体が、 独自に提唱しているガイドラインなのです。
 またこのガイドラインに関するもう一つの問題は、 このガイドラインに沿ったホームページを作っていると審査された会員は、 「JIMAマーク」というマークをホームページに貼ることができる、 となっていることです。 この「JIMAマーク」をホームページに貼っていることが、 この「日本インターネット医療協議会」の「ガイドライン」に沿っていることの 証明となるわけです。
 ではこの「JIMAマーク」を貼るにはどうしたらいいのか、 「日本インターネット医療協議会マーク使用規約」 (http://www.jima.or.jp/markkiyaku.html)を見てみましょう。

日本インターネット医療協議会マーク使用規約

第1条 目的

本規約は、日本インターネット医療協議会(以下本会という)が指定するマーク (JIMAマーク、略して マークという)の使用に関する規則を定めたものである。

第2条 マークの定義

マークは、本会会員が、ホームページを公開するにあたり、 本会会員であることを明示し、ホームページに掲載された情報に関し、 問い合わせ、意見、苦情等がある時に、 本会事務局が会員に代わってこれを受理し、 必要に応じ会員に連絡通知するために利用されるものである。

第3条 マークの内容

マークは、本会により定められたデザイン仕様に基づき作成された電子的に複製、 再配布が可能なイメージ画像である。

第4条 マークの変更の禁止

マークは、本会の定めるサイズ、様式に限り利用可能なものとし、 いかなる変更も認めないものとする。

第5条 マークの使用基準

(1)使用許可申請

本会会員はマークを使用するにあたり、本会宛て使用許可申請を行うものとする。 この使用許可申請手続きは本会入会申込時 (入会申込書の中でマークの許可申請が可能) または入会後、所定のフォームによりできるものとする。

(2)審査

本会は、上記の申請を受け、 マークの掲示を希望するホームページの内容について情報内容を閲覧し、 その内容が関連法規並びに一般社会的な倫理基準に照らし 著しく違背していないことを確認した場合に限り、 マークを使用を許可するものとする。審査結果はE-mailにて通知する。

(3)使用期限及び使用料

マークの使用期限は9条の取消を除き、特にこれを定めない。 また、特別の使用料は要しないものとする。

(4)使用の範囲

マークは、申請により使用を許可されたホームページのトップページ及び ここからリンクされる会員自ら管理するページの中で、 定めらたサイズ、様式で掲示使用できるものとする。 掲示するページの位置は規定しないが、 利用者が 容易に視認できる場所に掲示するものとする。

(5)マークからのリンク

マークからは、本会が定めるページ (http://www.jima.or.jp/jimalink.html) へのリンクを必ず設定するものとする。

(6)マークに併記すべき表示文

本会が情報利用者の安全確保のために定める「医療情報発信時の利用者告知」を 所定の様式例にならって、マークに併記すべきものとする。

第6条 利用者からの苦情等への対応

本会会員が管理し、マークが掲示されたホームページの内容について、 第3者から苦情を受けた時は、本会が必要と認めた場合、 当該ホームページの管理者にE-mail、FAX、 電話等の手段で苦情受付の連絡を行い、 これに対し会員が必要な対策を講じ、 その結果を 本会宛て報告するよう求めることができる。 なお、この際、苦情提供者については プライバシーを配慮し、 本人の希望がない限り氏名等の開示は行わないものとする。

第7条 苦情処理委員会

上記6条により受付した苦情に対し、本会からの通知にもかかわらず、 会員が必要な回答を怠り、または利用者からの苦情への対策を講じない場合は、 本会理事より構成される苦情処理委員会に対応策の決定を諮るものとする。

 長文ですので以下略しますが、まとめると、 この「日本インターネット医療協議会マーク使用規約」の特徴は、 この「日本インターネット医療協議会」の会員がホームページに貼ることが できるものであり、 ホームページに掲載された情報に関し、問い合わせ、意見、 苦情等がある時に、 本会事務局が会員に代わってこれを受理し、 場合によっては「苦情処理委員会」が動き出す、というものです。
 なおこのマークの使用料は要しない、と書かれていますが、 問題なのは、このマークを付けるためには「日本インターネット医療協議会」 の会員であることが前提条件であり、そして会員であるためには「会費」 を払わないといけない、という点です。ちなみに会費は、 http://www.jima.or.jp/INFO/s990425.html によると、

●入会登録費、年会費改定のご案内

平成11年5月1日以降より、会員会費が下記のとおり改定されます。

<入会登録費>
正会員、準会員、一般会員2,000円
賛助会員1口 50,000円

<年会費>
正会員4,000円
準会員3,000円
一般会員2,000円
賛助会員1口 50,000円

と、正会員は年会費4,000円を払うとなっています。
 大きな活動をする会が、年会費4,000円もの金額を徴収することは 珍しいことではなく、緒経費にそれだけの金額がかかるのかもしれません。 しかし、これでは「日本インターネット医療協議会」が設定した、 医療情報のホームページの「ガイドライン」に適合したことを証明する 「JIMAマーク」を取得するのに、間接的に年会費4,000円が必要、という ことになってしまいます。例え直接の「使用料」が要らないとはいっても、 結局間接的にはお金がかかってしまうのです。
ホームページに掲載された情報に関し、問い合わせ、意見、 苦情等がある時に、本会事務局が会員に代わってこれを受理し てもらえ、また「苦情処理委員会」というものまであるのですが、 これは邪推すれば、 用心棒代のようなものと誤解されかねないような危険性をはらんでいます。

 この「日本インターネット医療協議会」 という名前の団体の出自が、日本医師会の下部組織であったり、 日本医療情報学会や全国医療情報システム連絡協議会のような 権威と歴史のある議論の中から生まれた団体であったり、 また厚生省の外郭団体のようなものであればまだ問題にならないでしょう。
 またこの医療情報を提供するホームページに対する「ガイドライン」が、 日本医師会が決めたものであったり、日本医療情報学会や 全国医療情報システム連絡協議会のような歴史や権威のある 学会や研究会の議論で出てきた結論であったり、 または厚生省やその外郭団体が出した結論であれば、 まだ問題にならないでしょう。
 しかし実態は、それらとまったくの直接的関係を持たない、 そして全国に現時点でわずか62人の正会員しか持たない団体が、 「日本インターネット医療協議会」という名前を名乗り、 NHK、朝日新聞、共同通信などのマスコミに登場し、 「日本インターネット医療協議会」の「ガイドライン」が、 マスコミ上で発表されています。 そして「ガイドライン」に適合した証明の「JIMAマーク」なるものは、 年会費4,000円を払ってこの会に入会しなければ付けることができない、 という現状があるわけです。
「ある組織に費用を払った上で、自院のホームページの品質を保証してもらう」 という行為に対して、それをもっともだと思う人もおられるかと思いますが、 少なくとも私には到底受容できない考え方です。これはまかり間違えば、 「正しい評価をされるもされないも金次第」という恐ろしい方向へ向かってしまう 危険性を孕んでいるからです。
 危険だからこそ「正当な権威」「明瞭な出自」といったものを持つことが 評価する団体には必要なのですが、 残念ながら「日本インターネット医療協議会」を名乗る組織が それにふさわしいかどうかの確証がないわけです。

 おそらくきっとこの 「日本インターネット医療協議会」を名乗る団体を運営されておられる方達は、 純粋にこの日本のインターネット上の医療情報を良くしようという気持ちから 頑張っておられるのでしょう。 しかし、このような会の体制では周囲からずっと誤解されますし、 私自身も入会して協力しようなどという気にはなれません。
 「日本インターネット医療協議会」の運営体制について、 再考を促したいと思います。

文責: 安陪隆明 (平成12年9月10日)
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