平成11年7月24日,25日、全国医療情報システム連絡協議会16回定例会議と第13回 地域医療情報ネットワークシステム研究会が合同開催されましたので、その 報告を致します。なおこの報告は私個人の主観、偏見に基づく個人的な報告書 であり、一部誤解や間違い等も含まれているかもしれないことを、お断りいた します。
会場に入ると、ホストである岡山の先生方はハブやノートパソコンを持っ
て会場内を忙しそうに走り回られ、また「電源がないか」と探し回る参加者
の先生方が多かったり、という会場の雰囲気が一般の医学医療の研究会と違
うことを感じさせられました。
参加者は500人を越す盛会でした。
開会の挨拶では、全国医療情報システム連絡協議会の安田垣人先生から、 将来的に日本医師会のお世話で開催したい、という発言がありました。 また日本医師会常任理事の山田統正先生からは、昨年、全国医療情報シス テム連絡協議会と地域医療情報ネットワークシステム研究会の合同開催を してもらいたいとお願いしたという話が出ました。
〇是非、日本医師会主導で統一された研究会ができて欲しいものだと思い ました。
これは町立成羽病院で行っている消化管内視鏡の静止画像をINS-64を 経由してリアルタイムに岡山赤十字病院へ送り、消化器専門医のアドバ イスを求めようというものでした。
〇これはそれなりに役立つことと思いましたが、ここでも指摘されてい たことは、静止画では検査実施医が見落とした病変は結局見落とされて しまうこと、そして診療報酬の問題がつきまとうことでした。このよう な問題は、動画でも問題のない画質が可能な高速回線が使用できるよう になったとき、再び評価されるようになるかもしれません。
府中市を中心としての2市4町において、在宅医療に取り組んでおら れる医師や、訪問看護婦の間で、今までの「連絡ノート」から電子メー ル(との説明でしたが実際のデモはWebを使ってのデータベースという ものでした)を使って在宅医療、訪問看護を効率的に行おうというシ ステムでした。12人の医師が参加し、現在患者さんは216人。平成10年 9月から現在まで訪問看護婦による記録は約4,000件、医師による記録は 400件という話でした。
〇頑張っておられるな、という感じがしました。
被保険者証としても使える医療カードについての報告でした。被保
険者証としての情報はカードの表に印刷されており、被保険者証と
しては、他の地域でも使えるというものです。医療情報として検診
データが入っているというものです。
これに対する評価ですが、医療機関の事務レベルでは、カルテへの
転記ミスの減少、迅速化という意味で高い評価をされているようです。
それに対して医師側の評価は、いつも利用するが9.3%、良く利用する
が2.8%ということでした。また患者さんの側の評価は、携帯に便利、
という声がある一方で、活用方法がわからない、活用できる場所が
分からない、などの評価があるとのことでした。
〇まとめると、被保険者証として評価はされていても、医療情報の
入った医療カードとしてはほとんど評価されていないということで
す。
「何故、医師が見てくれないのか、今後の検討課題」と言っておられ
ましたが、私に言わせればこれは当然の結果だと思います。医療カー
ドと言われるもののこれが本質的な限界なのです。ちなみに島根県出
雲市ではとうとう医療カード(保険福祉カードという名前でしたが)
を廃止してしまいました。この程度のものを医師が使ってもらえる、
と思う方が机上の空論でしょう。
後の質問で新宿の秋山先生が「アクセスキー」のことを言っておら
れましたが、アクセスキーとしてのカードという考え方が正解だと思
います。
医師会の臨床検査センターのデータを、Javaアプリケーションを通 して参照したりグラフ化したりできるシステムの説明でした。
〇医師がJavaを使って作ってしまった、というところが大きく評価さ れるポイントだと思います。将来の展望として、現在、依頼医療機関 だけに制限されている患者さんの検査データの参照を、他の医療機関 でも共有できるようにしたい、ということがあげられていましたが、 これができればさらに素晴らしいツールになると期待されます。
病診連携を進めるために、医療機関だけで見ることができるクロー ズドなWebページの上で、各医療機関がどのような機能を持っているか、 例えば在宅IVHはできるか、酸素吸入はできるか、麻薬を使っての疼痛 管理はできるか、などの情報をデータベース化したシステムについて 紹介されておられました。
〇これは画期的なシステムだと思いました。導入時にまったく反対は なかったとのことですが、実際問題、こういうことをしようとすると 反対意見が出てうまくいかない郡市区医師会の方が多いのではないで しょうか。それにしても素晴らしい着眼点をよく実行できたと思いま した。
この後、特別講演として広島大学医学部附属病院医療情報部、石川澄 教授より「PHD(Personal Health Data)と情報開示」という講演がなさ れました。「患者情報は誰のものか、カルテは誰のものか」という話か 始まり今後の患者情報に対する開示の考え方の概論を述べておられまし た。
〇「今まではマニアによって情報化が進んでいた」という発言がありま したが、実際問題、なかなか実行実現が難しい問題です。これからは その難しさを十分把握した上で、実際に実行実現に努力していく時代だ と思っています。
最後のシンポジウムでは「情報システムとしての介護保険」という テーマで発表、議論されました。
日本医師会常任理事の青柳俊先生は、介護保険制度と情報システム のかかわりについての概論を述べられました。
次に、日本医師会総合政策研究機構主任研究員の川越雅弘先生から、 介護保険における一次判定ロジックの問題点をわかりやすく、クリア に、しかも厳しく指摘されておられました。
最後に国際医療福祉大学医療福祉部医療経営管理学科の高橋泰先生
から「ケアプラン作成のアルゴリズム」という発表がありました。
先生は「コンピュータは使わずにすむのが理想」「コンピュータはよ
ほどのメリットがないと使うべきでない」という考え方に立ちながら
も、2年前にケアプランを見て、「これはコンピュータを使わないと、
とんでもないことになる」と思い、結果的にそれがケマネージングソ
フトの「ケアマネくん」開発につながったそうです。
「ケアマネージャーは栄養士に近い仕事」
「このままではケアマネージャーはサービスプランの立案ができない。
今のケアマネージャーは予算内のケアプランの作り方を教えられてい
ない。医師で言えば『今日の治療指針』というべき治療指針にあたる
ものがない」
という言葉が刺激的でした。
〇これらの発表議論を聞いて、改めて思い知らされたのは、厚生省が要
介護度の診断をコンピュータで純統計的に行うという、前例のないあま
りに思い切った手法を中心指針に置いてしまったということでした。こ
れは一種のEBMとも言えないでもありませんが、それにしても大胆です。
そしてコンピュータで純統計的に扱うということは、扱い方をちょっと
でも間違うと、大きな副作用を全体に及ぼすのに、そのことを厚生官僚
はわかってやっているのだろうか? と疑問に思いました。医療における
EBMですら限界がわかった上で取り入れようとされているのに、日本の
介護保険では突然これが中心に来てしまった、という怖さを感じました。
「経験と勘」を一切無視する世界です。そしてまた医療での病気の診断
のような、わかりやすい診断基準のない世界です。ここで起きてくる
矛盾が全部二次判定にかかってくることになるのだな、と思いました。
また最後に高橋先生の言われた、企業サイドにおける介護保険Complex
による要介護者の囲い込み、という話もいろいろと考えさせられました。
開業医はどこの陣営に入るかを厳しく迫られる時代になりそうですね。
以上が、第16回医療情報システム連絡協議会と第13回地域医療情報 ネットワークシステム研究会1日目の報告でした。引き続き翌平成11年 7月25日の合同開催2日目の報告をさせていただきます。
開始前、同じ鳥取県東部医師会の中山先生が、会場の端に置いてある
ボックスから配線を引っ張りだして、自分でLANケーブルを作り始めまし
た。中山先生に限らず、何人もの先生がここに集まってきてLANケーブル
を作っています。この先生方は本当に医師だろうか? ここは本当に医学
系の研究会なのだろうか? と思う一瞬でした(^^;)
こういうことが来年もあるのなら、私もイーサカード付きのノートパ
ソコンとLANケーブルを持って来ようと思いました。会場でLANにつなぐ
ことができる医学研究会というのはなかなかないのではないでしょうか。
今回は外部のインターネットにつながるだけのようでしたが、これが
演者のスライドと連動して「このスライドは大切だから、うちのノート
パソコンに取り込んでおこう」ということができると面白いと思いました。
福山市医師会ではOCNエコノミー2回線で、会員がリモートアクセス までできるようにして情報システムを構築したとのことでした。これ は主にメーリングリスト、HTML化された医師会報、検査データの配信 に使われているとのことでした。Windowsに統一して勉強会を熱心に 行ったことにより、アクセスしてくれる、会員の方が増えたのはいい のですが、それに伴いNTサーバが最悪で1日3回も落ちるようになった とのことでした。このためLinuxを使ったオールインワンンパッケージ のサーバである Lance社のLXサーバ を採用。さらにリモートアクセスサーバ専用機として AscendMAX2012 を採用。これによりシステムは安定したとのことでした。
〇NTサーバの熱暴走対策として、サーバの上に台所の換気扇のような 大きなファンが据え付けられている写真にはびっくりしました。しか しこれでも熱暴走が押さえられなかった、というところが頭の痛いと ころですね。また一日目の夜に開かれた広域医療情報研究会では Cobalt Qubeが話題になりましたがオールインワンパッケージのサー バ(Thin Server)の時代ということをまた改めて感じさせられました。
福岡県医師会では医師基本情報、施設情報を中心とした会員情報 データベースを構築しているとの話でした。
医師会イントラネットを使って、心電図の遠隔診断やインフル
エンザ様疾患の流行情況をリアルタイムに把握しょうというもの
でした。
心電図のファイル化については、フクダ電子独自のデータファイ
ル形式とJPEGやBMPのような画像ファイルの2種類を試したそうです。
フクダ電子独自のデータファイル形式の場合、ファイルの大きさは
20KB弱で、INS-64回線でのメールの添付ファイルという形式で約3秒
だったのに対し、100dpiでのJPEG画像の方は300KB弱で、INS-64で
通信で1分弱というところだったそうです。
このフクダ電子独自のデータファイル形式による遠隔診断は、
モニタ画面でほとんど問題なく診断できるとの回答が70%、何とか
診断可能が30%で、診断不可能とした回答はなかったとのことでし
た。
インフルエンザ情報システムの方は、64医療機関から毎日の患者
発生数をデータベースに入力し、集計結果を毎日更新し、一般市民
にも公開したとのことでした。
○心電図のデータフォーマットの問題については、先日来の himedarumaでの議論を思い出しました。これは早く標準化してもら いたいものです。
埼玉県医師会ではTVネットワークシステムを以前から使用してい たそうですが、1対1の対話方式に臨場感が伝わらない、という不満 から、画面を増やしての実験をされておられました。
2000年問題に対しての日本医師会の取り組みが発表されました。
まず日本医師会の2000年問題についての基本姿勢は
「コンピュータ西暦2000年問題は本来、コンピュータおよび医療機 器業界が率先して解決しなければならない問題であるが、これを原因 とする患者の生命、健康に重大な影響を及ぼす事態は絶対に許されな いことである。したがって、現時点においては責任論に終始すること なく、患者の生命、健康を最優先課題としてこの問題に対処する」とのことでした。
○私は今までメーカーからの関連文書をきちんと保管しておかなかっ たのですが、これはきちんと保管しておかなければならないと思いま した。
医療情報化に対する厚生省の過去の取り組みの歴史概説と、今後取
り組む方向について話をされました。
まず昭和63年5月「診療録等の記載方法等について」という通知で、
ワープロ等でカルテ作成することを認めるも、この時は電子保存につ
いては認められず、紙にプリントアウトして保存、という形をとって
いました。
平成6年3月「エックス線写真等の光磁気ディスク等への保存について」
という通知で、安全性、再現性、共通利用性の3つの技術的基準を満た
せば、光磁気ディスク等の電子媒体に保存しても差し支えない、としま
した。そして1年後に実働する機械が出て来たのですが、厚生省が期待
した程、広まらず、これについては「保険指導の問題が考えられ、保険
局を巻き込まなかったことを反省している」との発言をされました。
平成10年度、厚生省はMEDISに対して、診療録の電子保存に関する技術
要件に関する検討を委託しますが、その際の配慮点として
ということをあげたとのことでした。これに基づき本年4月の診療録 の電子媒体保存の通知となったということです。この際、平成6年3月 の「エックス線写真等の光磁気ディスク等への保存について」の通知が 結局広まらなかったのは、関係する局をきちんと巻き込まなかったこと によるものとの反省に立ち、健康政策局、医薬安全局、保険局の3局長 の通知となり、これは異例なことだそうです。
- 医療機関の管理者の自己責任で実施することとする。
- 情報通信分野の技術進歩はめぐるましいので進歩に取り残されない ような要件にする。
- 保存媒体は規定しない。
費用対効果が最大の機器を調達できるようにする。- 診療現場でペーパーレス、フィルムレスが可能になるようにする。
- 患者様の情報が相互に利用できるようにする。
○毎年の医療情報システム連絡協議会と地域医療情報ネットワーク
システム研究会では、この厚生省の先生の御発表を私は一番楽しみに
しているのですが、今年は時間が少なく残念でした。特に電子的な
診療録保存の「真正性の確保」の問題は一番議論が集中するところ
ですが、これの説明する用意をしてこられたようであったのに、
それを時間的関係からか短時間で流されたようであったのが残念
でした。今後出てくるという「Q&A」に期待することにします。
評価できる点としては、今回の電子保存の考え方の中で
「保存媒体は規定しない」
という点が明示された点です。これはかつてのIS&Cによる「最初に
光磁気ディスクありき」という方針があった時代と比べると進歩だと
思います。平成6年3月の通知がうまくいかなかった原因として、保険
的問題をあげておられましたが、このことも失敗原因の一つの大きな
要因になっていたと私は考えています。それが(私が座右の銘にしてい
る)久留米の梶原先生の名言
「メディアにこだわってはならない」
に繋がって行くわけですが、今回「保存媒体は規定しない」という
方針がきちんと示された意義は大きいと思うのです。
問題点として、私と同じ鳥取県東部医師会の中山先生が質問された
「何故、病名マスターに著作権がかかり、高価な金額でMEDISが販売
しているのか?」
というのが、いまだに納得のいかないところです。
松本先生は「バージョンアップ込の値段であり、3万円は高くない。
責任問題から著作権フリーとするわけにはいかない」と述べておられ
ましたが、これは私や中山先生には納得のいかないお答えでした。
そもそも国民の税金をかけて作ったデータを、それもたかだかフ
ロッピーディスク1枚ですからメディア代などしれているものを、
何故、3万円という高価な金額で配布するのか? 受益者負担という考え
方もあるでしょうが、あまりに高すぎます。第一、こういうデータを
出せるのは、厚生省-MEDISしかないのです。
「MEDISの出したデータは高すぎるから、こちらで作ろう」などと、
我々やどこかの会社が作るわけにはいかないデータなのです。そうい
う意味では、独占禁止法の精神に触れる事態とも言えます。
公的に作られたデータは、国民全てが等しく共有できる財産であり、
オープンにすべきである、と私は考えます。
責任問題という意味では、オープンにしようが金を取ろうが、厚生省
外郭団体という準公的立場にあるMEDISに責任があるのは当然のことです。
そして例えばWeb上でデータを公開するのなら、そのWeb上のデータの
真正性のみMEDISが責任を負い、ダウンロードして以後の真正性につい
ては、それを使う人間の自己責任ということでかまわないのです。
今後、この問題は厳しく追求されるべき問題であると私は考えています。
この後のプログラムには通産省からの発表が予定されていたようですが、 時間の関係からなのか? 割愛されました。
午前中の最後にこのフォーラムが開かれました。
最初に、空地啓一地域医療情報ネットワークシステム研究会代表
世話人から、1987年に姫路市医師会でネットワークシステムを構築
したが、その後、全医師会員の参加されたネットワークシステムは
できていない。全員参加が出来ない原因と、それらの解決策につい
て意見を交換し、今後の構築を考えていきたいというべき内容の御
発言がありました。シンポジストとして出てこられたのは、広島大
学医学部医療情報部石川澄教授、小田原医師会理事の遠藤郁夫先生、
NTTデータ通信の谷口氏、NECの矢野氏、サンヨーメディコムの関氏
でした。シンポジストからは「運用が大事」という声が出たり、
フロアから「今のJISキーボードでは駄目だ」という声が出たりし
ていました。
なお会場では、このフォーラム最後にアンケートを提出するように
と言われて、封筒が各地域医師会に配布されました。封筒の中には
紙が2枚入っており、
1枚はアンケートの趣旨を説明する内容
、
もう1枚はアンケート回答用紙
でした。
○まったくまとまりのない意見が散発するだけのフォーラムでし
た。
中には、高橋徳先生がWebで情報提供することの重要性を訴えた
り、大橋先生が情報をオープンに提供することの重要性を訴えたり
などの、大事な光る発言があったのですが、全体的に話の流れは
まったく途絶えていて、まとまった議論のフォーラムになってい
ませんでした。
何故、ここまでこのフォーラムは失敗したのか、ということにつ
いては、フロアの声としては「今回のシンポジストはミスキャスト
である」という声が少なからず上がっていました。これはまったく
そのとおりだと思います。メーカーから3社も壇上に上がられるのは
あまりに不自然でした。しかし、もう一つ進めて考えて、どうして
こういうキャスティングになったのかを考える必要があると私は
思います。長い話になってしまいますが、これは今後の地域医療
情報ネットワークシステム研究会のあり方を根本的に問う問題と
直結しているため敢えて取り上げました。
今回の研究会は、全国医療情報システム連絡協議会と、地域医療
情報ネットワークシステム研究会(以下、COMINES)との合同開催で
したが、このフォーラムの壇上の顔ぶれを見ると、空知先生は
COMINES代表世話役、遠藤先生もCOMINES世話役、石川先生は昨年の
COMINESで講演されましたし、また企業からの方もCOMINES賛助会員
と、このフォーラムは完全にCOMINES側の主導主催で開かれたフォー
ラムでした。
そしてCOMINES設立の目的を考え、今回の
フォーラムの抄録及びアンケートを
よく読むと、問題は「ミスキャスト」といったところにあるのでは
なく、もっと本質的な主催者側(COMINESの上層部)と参加者側の意識の
ずれが浮かび上がってきます。
現在、地域医師会の情報ネットワークシステム担当者の仕事は、
地域医師会単位でのインターネットを使った各種サービスの提供を
どうするか、ということが主になっています。
1990年代前半まではパソコン通信のようなホストコンピュータシ
ステムを主体にしたところが多かったのですが、1990年代後半に
なってインターネットが普及するにつれ、その活動内容も急速に
インターネットへとシフトしていきました。従来のパソコン通信の
ようなホストコンピュータシステムとインターネットとの違いを
ここで詳しく論じるわけにいきませんが、中央集権的なホストコン
ピュータシステムに対して、インターネットは分散処理的であり、
誰でも自前のサーバさえあれば、そのサービスを世界中に使っても
らうことが出来るようになったのが、インターネットの一つの大きな
特徴です。
そのため「日本のどこかの組織が、日本の医療情報ネットワーク
を率先して集中、構築する」ということをしなくても、地域医師会
単位や、その他の組織や個人単位の小規模な活動でも、良いものさ
えできれば、それを誰もが利用出来るようになったのです。逆に
郡市区医師会立の検査センターからの情報などは、RASを使った
イントラネットや、VPNなどを使って、いかに郡市区医師会単位で
クローズドにするか、という点に気が使われています。
またインターネットはワールドワイドなソフトウェアの流通と
協同作業を可能とし、これがオープンソースソフトウェアを成立
させる母体となりました。このおかげで我々はメールソフトや
WebブラウザはもちろんOSやWebサーバまで無料で使用できるように
なりました。システムをゼロから作る必要はなく、これらを利用し
組み合わせることにより、安いコストで十分使えるシステムが構築
できるようになったのでした。
地域医師会単位の自助努力で十分使えるものができるのが今の
時代であり、その認識は現在の各地域医師会の情報システム担当者
にとって常識になっています。
さて、このフォーラムの演題は、
「全会員が参加できる地域医師会の医療情報ネットワークシステム」
となっていました。上に上げたような意識を持った一般の参加者、
各地域医師会の情報システム担当者がこの演題を見たら、普通、
「どれだけ多くの医師に使ってもらうシステムにするためには、どう
いう工夫をすればいいのか」
という「一般論」を議論するためのフォーラムとだけしか頭の中に思
い浮かびません。
しかし、このフォーラムの本来の目的はそのようなところにあった
のでしょうか? 主催者側の意図するところは何だったのか、ここで
このフォーラムの抄録を別に示します。
この抄録の大事な部分を抜き出すと、
「先ず〜解決策を話し合います」
と書かれているのが、この部分です。
先ず医師会として費用の捻出が問題ですが、その大部分はソフト代と 端末機代です。その解決策を話し合います。
つまり、先ず費用(ソフト代と端末機代)を医師会でどう捻出するかを
話し合いたかったそうなのです。
そして次に
「次は操作性が問題になりますが〜問題解決に向け議論してみたい」
と、操作性について話し合いたかったそうなのです。
この2点は、このフォーラムのために各地域医師会に配布された
アンケートの内容ともまったく一致します。
費用については私個人の勝手な考えでメーカーから文句が出るかも知れ ませんが、ソフト代を安くするには10-20の医師会が基本ソフトを共有 すれば良いと思います。
医師
会数基本
ソフト代各医師会
費用メーカー
利益医師会合計
メーカー
売り上げ合計メーカー
利益合計1
10
201億円
1千万円
5百万円3百万円
3百万円
3百万円2千万円
3百万円
2百万円1億2千3百万円
1千6百万円
1千万円左に同じ
1億6千万円
2億円2千万円
3千万円
4千万円
COMINESとして作りたいシステムの 「基本ソフト代」を1つの医師会が負担すると1億円になるが、10の医師会が 分担して負担すれば1億円÷10 = 1千万円となり、また20の医師会が分担して 負担すれば1億円÷20 = 500万円になる。そしてアンケートの回答の方では、 各地域の医師会に対して、
1:基本ソフト代にかかわらず 真剣に検討したい 検討する 2:基本ソフト代が3千万円くらいなら 真剣に検討したい 検討する 3:基本ソフト代が2千万円くらいなら 真剣に検討したい 検討する 4:基本ソフト代が1千5百万円くらいなら 真剣に検討したい 検討する 5:基本ソフト代が1千万円くらいなら 真剣に検討したい 検討する 6:基本ソフト代が5百万円くらいなら 真剣に検討したい 検討する
ということを聞いてきています。
ちなみに各地域医師会の負担は基本ソフト代だけでは済まず、メーカー
利益等その他の費用がさらに500万円以上かかることが表から読み取れ
ますし、またその後にそれに加えて端末機の費用もかかることも書か
れています
早い話が「COMINESが各地域医師会を糾合して作るシステムに必要な
億単位のお金を、各地域医師会がどう負担捻出するか」という点をまず
聞きたかったわけです。
その次に
次は操作性が問題になりますが、姫路市医師会での経験からある程度 実証できたと思います
という「操作性」を問題にし、その言葉はアンケートの中の、
操作を明解、単純、簡単にしなければなりません。機能がありすぎて マウスを何回も操作しなければならない最近のパソコンには、まだ パソコンを使っていない約半数の会員は横を向いてしまうでしょう。
という言葉にかかり、アンケートの中で、
メニューにカーソルを合わせてリターンキーを押すという懐かしい
インターフェイス形式の説明
になっていくわけです。
要するに、抄録から考えてもアンケートから考えても、これらがあの
フォーラムの本来の目的であり、主催者の意図するところあったのです。
次に何故、シンポジストとしてメーカー側から3人も壇上に上がった
理由を考えてみました。この抄録には
「メーカー側も、積極的に開発して売ることよりも、売れる可能性を確かめ
てから開発しようと、消極的になっています」
と書かれています。つまりメーカー側は、姫路市医師会のようなシステムを
作ることに消極的になっているそうなのです。
最近の経済事情ではメーカー側も、積極的に開発して売ることよりも、 売れる可能性を確かめてから開発しようと、消極的になっています。コ ミネスの目的である「開発されたシステムの相互流用促進」がメーカー にインパクトを与えることを願っています。
消極的な理由として「最近の経済事情」をあげておられますが、しかし、
常識的に考えて、やはり今のインターネットの時代に、以前の姫路市医師会
のシステムのような1980年代的な発想のシステムの開発に対して、
メーカーが及び腰になるのは当然でしょう。
そういうメーカー側に「インパクトを与える」ためにも、
具体的なお金の話をするためにも、関連メーカーが揃って壇上に上がってい
ただいた方が良いということになります。
こういうコンセプトの元に今回のフォーラムは設定された、と考えると
今回のシンポジスト人選の理由がすっきりと理解できます。つまり主催者側
にとっては、今回のシンポジストはミスキャストなどではなく、もっとも
適切なキャスティングであったわけなのです。
ただここで問題なのは、このフォーラムを設定した主催者側(COMINES
上層部)の考え方と、地域医師会の医療情報システムを担われておられる
ようなフロアの先生方の日頃の考え方の間に、大きな隔たりがあったと
いうことでしょう。
「全会員が参加できる地域医師会の医療情報ネットワークシステム」
と言っているシステムが、「一般論としてのシステム」を意味するのではなく、
「COMINESが各地域医師会を糾合して作るシステム」の意味であることなど、
普通、頭の中に思い浮かびません。このフォーラムの第一の目的が
「COMINESが各地域医師会を糾合して作るシステムに必要な億単位のお金を、
各地域医師会がどう負担捻出するか」
だということなど、抄録とアンケートをしっかり読まなければわからない
のです。結局、このフォーラムの中では、
先ず医師会として費用の捻出が問題ですが、その大部分はソフト代と 端末機代です。その解決策を話し合います。
という、主催者側(COMINESの上層部)が先ず話し合いたかったお金の話
はまったく出ませんでした。抄録に書いてあることとはほとんど関係が
ない話ばかりが散発的に出てくるだけでした。
このフォーラムを主催されたCOMINESの上層部は、この点を踏まえておかな
いと今後も同じ失敗を繰り返すことになるでしょう。
1971年から始まる日本の遠隔医療実験の歴史について述べられました。
○古くから頑張っておられた高橋先生のお話に感銘を受けました。
テレラジオロジーについては既にコマーシャルベースでの活動が
始められているとのことで、この方向については私も期待していま
す。
意外だったのはTV電話で往診件数等が減って好評だったというこ
とでした。今まで私は「TV電話なんかで顔色がわかるか」と、どち
らかというとTV電話の診察に否定的でしたが、単に声で話すのと、
相手の顔と目と病変部を見て話すのとでは、単に診断という面だけ
でなく、精神的な安心感も伴うものだろうかと想像しました。
診療データベースを基にした紹介状作成支援システムについて の発表でした。
○見ためはブラウザベースの立派な感じのものでした。ただ医療画 像はスキャナやデジカメを使わないといけないというところに、 入力上の問題を感じましたし、またExcel等も一部に使っているため か、Windowsだけしか使えないシステムになっているとのことで、 ここらへんにJava等を使われればいいのに、と思いました。
SMTPとPGPを使っての病診連携システムの実験について講演され
ました。
このシステムは同附属病院内の13診療科と、外部の6医療機関の間
よる実験だそうで、平成11年1月〜5月初旬までの26例の利用があった
そうです。
○PGP等のフリーウェアを使うところに評価が別れると思いますが、
少なくとも実験段階では悪くない使い方だと思います。MERIT-9の
診療情報提供書XML-DTDを使って行こうとする点も評価できるところ
だと思います。きちんと伝送時間の実験もされておられるところに
感心しました。しかし平均値としては良い結果が出ても、中には
100KBのデータの送信に1時間近くかかったこともあった、というと
ころに、インターネットをこの目的に使うことの本質的問題点を感
じました。
利用例が26例と少ないことを嘆いておられましたが、これはいわ
ゆる電子カルテが導入されない限りどうにもならない問題だと思い
ます。
この後、内田璞先生、田中昌昭先生が壇上に上がられ、主に医療 情報の標準化の問題が論じられました。
○ISO TC215が今後の契機になってくるだろう、という意見が出て いましたが、良きにつけ悪しきにつけ、やはりそれを待つしかない だろうと私も感じています。
以上で、第16回医療情報システム連絡協議会と第13回地域医療情報ネット ワークシステム研究会の合同開催が終了しました。