各種電子カルテの特色とその違い
デファクトスタンダードとなるための条件
電子カルテについてはシリーズでお話しをしていて昨年も米子で講演をしました。自分なりにまとめをする意味で発表しています。よく実物の実演がないといわれたりしますが佐野先生のように実物をお見せしようとするとかなり時間がかかりますので簡単ではありません。自分で電子カルテを開発し、使用し始めて5年になります。最近電子カルテの話題も増えこれから導入される方の参考になるようにまとめてみました。分類に関しては独断と偏見によって、勝手に私がしたものです。まず開発組織別にみたものです。大手レセコンメーカー(サンヨー、東芝、日立)の開発したもの、検査会社の新規参入したもの(BML)、公的予算の関与したもの(ゆーねっと)、ベンチャー開発、自家用中心の医師主導型開発、オープンソース自由参加型開発と分けられます。大手レセコンメーカーの開発したものが知名度としては高いと思いますしあとBMLの参入も注目に値します。オープンソース自由参加型はこういうのがあったら良いなという意味で取り上げました。大手のものは皆さんの目に触れる機会が多いので自分で開発したものやベンチャー開発型とかに力点をおいて紹介します。一部の例ですがアーチャンレセプト、プロフェッショナルドクター、Dynamics、WINE、左野医院電子カルテ、中山小児科内科医院電子カルテなどがあります。
次にデファクトスタンダードという言葉は聞いたことはあると思いますが本日は言葉の意味も覚えていただきたいと思いますので説明します。もともとラテン語のde factoが語源で事実上の標準という意味です。どこかの公的な機関が標準だといって決まったものではなく多くの人が使うようになった結果標準になったものを言います。コンピューターの世界ではこのように決まった標準は多いのです。例えばキーボード配列ですが、皆さんメールを使うとか電子カルテを使うというときにキーボードの使いにくさのことが問題になります。実はキーボードは1870年代に開発されたものです。当時の英文タイプライターは、速く文字を打つと鉄の棒が絡むことが問題で、速くキーが打てないようにした画期的な発明が速いスピードでは「打ちにくい」キーボード配列でした。この打ちにくい配列によってタイプライターの棒の絡みつきを解消したのです。そのキーボードの配列が現在でも使われているのです。一度、実質的な標準規格になってしまうと、たとえ時代遅れになってもそれをくつがえすのはたいへん困難であることの典型例です。ではよくWindowsがデファクトだと言われることがありますがひとつの企業が独占しているものは標準とは言えないと思います。その企業が倒産したりする可能性を考えれば解ると思います。逆に例えばビデオのVHS規格は特許の問題はあるかもしれないが色んな企業が同じ規格のものを作っていますのでこういうのはデファクトと言っても良いと思います。インターネットで言えばTCP/IP、コンピュータでいえばDOS/Vのような規格はデファクトスタンダードといえます。電子カルテで言えば特定の企業、特定のデータベース、特定のOSに依存したものはデファクトにはなり得ません。電子メールのメーラーのように乗り換えてもほぼ同じことができる必要があります。例えばBMLさんの電子カルテは自分の会社の検査データしか取り込めないけどどこの検査会社のデータでも使えるというようにしないといけないと思います。いかにオープンにするかが大切です。厚生省が電子カルテを開発して標準化をすればよいという意見もありますがそれは良くありません。マスターの作成とか認証局としての機能なら良い。自由と多様性が保証されることが最も大切なことなのです。また電子カルテの話しになると必ず入力方式が問題になりますが、マウス、キーボードの欠点利点、音声認識、手書き認識について色々議論があります。どれも一長一短であり、音声認識が便利と言っても、医療というのは細切れの情報が大量に飛び交う世界であり、音声認識、手書き認識が実用に耐えうる方法が確立されるのはまだ時間がかかります。私は入力の問題はコンピュータ業界全体の問題であり電子カルテだけの問題ではないので切り離して判断すべきだと思います。次は電子カルテ分類別将来予測です。現時点で市販されているものは非常に高価です。レセコン発展型はコストが下がらない可能性が高い。パッケージ型の電子カルテも使えば使うほどデータが溜まりますので乗り換えようとするとデータの互換性で大きな問題が生じます。ネットワーク接続型は未来型ですが回線等のインフラの整備次第では大きな可能性があります。電子カルテを自作する意味は周りに対して標準化を促すことにあります。ユーザー参加型で電子カルテを作って行くことが、デファクトになるかどうかは難しい面がありますが、自由があるといういみで標準化が促進されやすい。ベンダーに対しても自由競争を促します。医者がレセコン部分を作るべきでないという意見もありますが必ずしも全てを作る訳ではありませんし、使ってみて意見を言うのも重要な参加方法です。また有形のもの(ハード)は一人でひとつの物しか作れなかったのがソフトならネットワークで多人数が繋がることによって多人数で面白いものが作って行けるとう発想の転換ができます。オープンプラットフォームはOSに依存しないということ、オープンソースは仕組みが見えるということ、XML形式はデーターの永続性の保証、電子カルテのデータ交換規約MML等で標準化することはデーターの互換性が保たれます。電子カルテの構造についてです。SQLデータベースのメリットはOSが何であってもDBは共通化できることです。電子カルテの表の部分つまりユーザーインターフェースの部分は何でも良いのです。そしてさらなる共通化、コンポーネット化がすすむことを目指すべきだと思います。
最後に日本経済新聞記事のインパクトについて。医師会主導の無料ソフトとは。かねてより私は電算レセプト等のマスターは無料で手に入るべきと主張してきましたが、実現するかもしれません。レセプトソフトの基本部分は無償配布されるべきと考えてきましたが実現するかもしれません。データは日本医師会に集まる仕組みを作り分析すれば厚生省と対等になれると思っていましたが夢でないかもしれません。Linuxはオタクのおもちゃではなく医者の道具になるかもしれません。そして何がデファクトスタンダードになるかは日本医師会の動向によって、革命的な変化が起きつつあるように思います。
中山小児科内科医院
中山裕雄