<第11回地域医療情報ネットワークシステム研究会(COMINES)報告>

 平成9年5月17日、18日に鹿児島市で第11回COMINES(地域医療情報ネットワー クシステム研究会)が開かれました。この研究会は全国の42郡市区医師会が参 加する、地域に密着した情報ネットワークについての研究会です。これに参加 しましたので、その感想を述べたいと思います。なおこの報告は私個人の主観、 偏見に基づく個人的な報告書であり、一部誤解や間違い等も含まれているかも しれないことを、お断りいたします。

 一日目の5月17日。
 来賓挨拶としては、日本医師会の小池昭彦常任理事より、日本医師会の中に は、医療システム委員会と情報化検討委員会の2つがあり、医療システム委員 会の方は、今年1月の日本医師会のホームページ立ち上げに携わった委員会で あること。また情報化検討委員会はシンクタンクであって、ここよりの答申と して、全国の医師会の総合情報ネットワーク構築が提唱され、まず日本医師会 と都道府県医師会との情報ネットワークシステム構築を目指し、またその次の 段階として郡市区医師会とのネットワーク構築を目指したいことを述べておら れました。

 最初の講演では鹿児島大学医学部附属病院医療情報部の宇都由美子助手より 「身近な通信衛星利用 - 遠隔教育、研修ネットワークシステムの実用化にむ けて」との講演がありました。実際のビデオの中では「双方向での希少人材の 有効利用」ということを強調され、また当初数千万円を要した実験費用が、 2回目数百万円、3回目は電話回線の併用により80万円になった、とコスト面で より容易になったことを強調されておられました。

 2番目に、あいち健康の森健康科学総合センターの井形昭弘センター長が 「未来の長寿社会」という特別講演をされました。「高齢者が増えるというこ とは、決して社会のマイナスではない」というのが、この講演の主題で、情報 機器の発達は高齢者の機能低下をサポートできるため、そのエネルギー(円熟 した頭脳と豊富な経験)を社会の発展に結び付けることができる、例えば、寝 たきりになっても1冊の本を書いた人もいる、という話でした。また「公正さ を促進するコンピュータ」という話をされ、公害被害者の認定(ex.水俣病)、 介護保険における要介護者の認定、臓器移植ネットワークなどの客観的な判定 に情報機器が重要であることを主張されておられました。電子カルテや医療画 像ファイリングのみについ目がいってしまいがちな私でしたが、こういう切り 口も忘れてはならない、という意味で良い刺激になりました。

 この後「医療とインターネット」というテーマでのシンポジウムが行われま した。
 まず下甑村国民健康保険直営長浜診療所の伊知地信二所長より「僻地医療と インターネット」という題で、離島からでもインターネットを使って情報を手 に入れたり、また逆に発信したりしている、という話をされました。

 岡山市医師会の田中茂人副会長からは「岡山市医師会のホームページができ るまで」という講演が行われました。実は私は郡市区医師会のホームページの 中で岡山市医師会のホームページを高く評価しています。その理由は非常にわ かりやすい医療機関マップと、その医療機関の情報が出ているからで、地域住 民にとって非常に有益な情報を提供していると思われるからです。これでクリッ カブルマップであれば完璧だと私は思っていました。個人的には鳥取県東部医 師会でホームページをもし作るのならば、この岡山市医師会のホームページを 見習って、と考えていました。講演によると、このホームページは、最初平成 5年度に厚生省からのかかりつけ医推進モデル事業として医療機関のデータベー スを作り、さらにそれを「かかりつけ医マップ - 岡山市のお医者さん」とい う小冊子として発行。その際できた大量のデジタルデータをそのままホームペー ジに応用したそうです。現在1日14〜15件ほどのアクセスで、まだまだアクセス 数が当初の期待よりも少ないとのことでした。そして、医師会の情報をすべて さらけ出すような覚悟をしないと質の高いホームページはできないのではない か、またコンテンツを決めるとき一般の人も加えた委員会も考慮すべきではな いか、と言われておられました。そしてこれからホームページを作る医師会へ の助言として、今後の医師会の情報は最初からデジタル化しておければ、あと からホームページへの流用が容易であるということを言われておられました。 とても参考になる意見でした。

 高槻市医師会の高橋徳理事からは「医師会とインターネット」という講演が ありました。私は既に同氏が「医療とコンピュータ」誌 Vol.8 No.1に寄稿さ れた「医師会のホームぺージの現状」という論文を読んでいたのですが、全国 の医師会ホームページをくまなく体系的に解析されてまとめられた同氏の努力 には頭が下がる思いでした。先日、鳥取県医師会情報システム検討委員会が開 かれた時、ホームページ作成の件が議題にあったため、この論文を紹介したと ころ、大変参考になると好評でした。今回の講演もこの解析を元にしたもので した。まずホームページをどこに置くか、という点で、間借り、借家、持ち家 の3つの方法があるけれども、経費、技術、メンテナンスの点を考えると郡市 区医師会はサーバの間借りや借家で良いのではないか、とおことでした。また ホームページの内容をどうするか、という点については、各医師会にあった項 目をグラフ化されたものを示し(このグラフは「医療とコンピュータ」誌に出 ていたものと同じです)夜間休日診療所情報が1位であるにもかかわらず、こ れが活かされていないのではないかとのコメントをされておられました。また ネットワークのあり方についても触れられ、医師会ホームページの一般人に対 する健康情報の内容が二重、三重になっているが、全国共通の情報はリンクで すませばよいのではないか、とのことでした。その実験的試みとして大阪府医 師会のホームページでは全国医師会のリンク、全国の医師会の提供する健康情 報のリスト、看護学校のリストを作成しているとのことでした。

 この日の最後に講演された(株)熊本ソフトウェア研修センター技術開発部開 発課の八鹿健介課長の「ホームページを創る」という講演は、この日の講演の 中でもっとも刺激的でまた具体的で勉強になった講演でした。同氏は「こうい う世の中になっちゃったんだから、ホームページを作らなくっちゃいかん」と いう動機はそれでもいいが、そこから先が問題とし、一般企業が「物を売る、 買う、知らせる、広告する」といった見る側に対して明確なホームページにな りやすいのに対し、医師会のような組織の場合はよく考えないといけない、と 注意を促しました。
 まず「インターネット(メディア)の特性を知る」という点について「テレ ビを見るのとインターネットを見るのとは大違い」で「お金を払って見に来る のだから、価値のないものは見ない」と喝破されました。つまりホームページ に関しては受け身(利用者側から見て能動的な行為)であるということを忘れ がちだということです。そのため「コンスタントに根気良く情報を載せ続けな いと、そのホームページは死んでしまう。それができなければやらない方が良 い」と断言されました。
 次に「ターゲットを知る」という点について「医師会のホームページは会員 向けなのか一般向けなのかはっきりしないところが多い」という問題点を指摘 されました。それは狭義のコンテンツのみならず、リンクについても会員向け のリンクなのか一般向けのリンクなのかをはっきりさせなければならないと説 かれました。誰に情報を発信したいのか、中途半端な作り方をすると誰も見な くなるため、ターゲットを決める必要があるとのことでした。
 そして「ボランティア精神を知る」という点について、ホームページ作りの 仲間あるいは協力者、ボランティアを増やし「酷評する医師をぜひ仲間に」と 言われました。
 また「言葉を知る」という点について、若い世代に見る人が多いのだから、 紋切り型の言葉はやめて、「自分の言葉で表現する」ことが大事とのことでし た。要するに「ホームページを見るのは少年ジャンプの読者層」だということ なのです。例えば「何かご意見、ご質問がありましたら事務局宛にメールくだ さい」という書き方では、意見や質問が来るわけがない。言われてみると、あ、 なるほど、なのですが確かに大事なことです。ただ私のような内科医の場合、 患者さんの大半は高齢者、つまりホームページを見るような若い人は元気で病 気になりにくいわけで、この患者層とホームページを見る側の層の違い、は根 源的な問題として残りそうな気がしました。
 さて次に「ホームページを作る上でのポイント」として「送り手の要求と、 受け手の欲求は一致しているか」そして「メディアの特性を活かしているか」 ということに踏み込みます。面白みがないから観光情報をつける、というのは どこか変な話ですし、また情報がないからこと細かく書くというのも、相手の ことを考えていないと言えます。実際に成功したアメリカのある病院の例とし て、性に関するホームページを作った病院の例をあげておられました。この場 合、まず若い世代がターゲットになりますし、また性という問題について顔を 見ずにすむというメディア特性が活かされています。やってきた質問の中で特 によくあるパターンのものは、そのままホームページに書いてしまう。そうい うことをしているうちに結果的にその病院に患者さんが集まってきて大繁盛し た、ということを例にあげておられました。
 それから「表現技法の問題」について触れられ、「情報の優先度、構成がわ かりやすく探しやすいか」ということ、そして「表示完了までの時間はどうか」 ということについても気を配ります。今の28,800Kbpsというモデムスピードを 考えると、だいたい30KBくらいに収めるのが適当ではないか、と具体的な数値 をあげておられました。私などは普段表示完了までの遅さにいらいらするせい か「テキストだけでかまわないじゃないか」と思っていたのですが、同氏によ ると「テキストだけではホームページの特性が活かしきれない」とのことで、 やはりここらへんはバランスが必要なようです。
 また業者委託する場合の問題点として「業者は考えてくれているようで何も 考えていない」とはっきり言われ、業者委託するにしてもきちんとした設計は 医師会側で行う必要性を言われました。業者選定の際のポイントとしては、過 去にその業者が作ったホームページを見せてもらって、そのコンセプト等を説 明してもらい、それを聞いた上で決定することが重要とのことでした。
 具体的な示唆に富み、今後地域医師会のホームページ作りに協力していかな ければならないであろう私にとって、大変参考になる意見でした。
 こうして第11回COMINESの第1日目は同氏の刺激的な講演の余韻を残して終わ りました。

 5月18日、第11回COMINES(地域医療情報ネットワークシステム研究会) 2日目となりました。この日の朝6時半頃に震度1〜2位だったでしょうか、 軽い地震があり、今月13日の鹿児島の地震の話を聞いていた私は、軽い 地震でもどきっとしました(^_^;)

 この日の最初は鹿児島大学医学部医療情報管理学講座の熊本一郎教授より 「マルチメディアと地域医療」という講演をされました。病院内の物流システ ムとしてバーコード(Point of Sales:POS)で管理されたシステムを紹介。手術 中でもリアルタイムに物流管理しているということで、これは便利そうでした。 また遠隔医療として離島からのCT画像伝送システムが紹介されました。そして セキュリティとして暗号鍵方式の一般的な解説をされました。

 ここより先は電子カルテの演題ばかりになります。
 実は私は医療情報ネットワークに電子カルテは必須のものと考えています。 確かに電子カルテがなくても、その場で情報をデジタル化(電子化)して送れ ば、一応医療情報ネットワークは成り立つのですが、実際問題として、普段そ ういうデジタル化という作業(例えばレントゲン写真をスキャナーにかけてパ ソコンに取り込む。キーボードで紹介状を打つ)をしていない医師が、いざと いう時に手間暇をかけてそういうことをするか?と言えば、まずやらないでしょ う。ネットワーク上をデジタル情報が飛び交うためには、まず病院内、診療所 内の情報そのものが、あらかじめすでに全部デジタル化しておいてあり、必要 な時にネットワークにそのまま流すだけで良い、としなければ、まず使われな いと思うのです。そして紙に書いたものをあとからデジタル化するのは物凄い 手間ですから、やはり「情報発生源入力」を考えなければならない。すなわち それが電子カルテだというわけです。ですから電子カルテがまずできなければ、 医療情報ネットワークなどできるはずがない、と私は思うのです。そういう意 味で私は電子カルテに注目しています。

 そのトップに私が今回もっとも話を聞きたかった、厚生省健康政策局総務課 医療技術情報推進室の上田博三室長の講演がありました。同氏はいつも歯切れ の良いそして巨視的な視野に立った的をついた話をされ、しかもその内容は 刻々と移り変わる情勢の真っ只中のもっとも新しい現状について話をされます。 特に電子カルテや医療情報ネットワークの問題は、国(厚生省)が出される規 格、規制、規制緩和等の情報を無視しては成り立ちません。はっきり言って本 当の電子カルテの時代は、まず国(厚生省)が明確な電子カルテの規格を打ち 出してからでなければ進まないと私は考えています。そういう意味で非常に貴 重な講演と考えています。

 さて同氏は今回「最近の医療情報システムのトピックス - 電子カルテ開発 を中心として」という演題で講演されました。  まず電子カルテの話の前に「インターネットと広告」という話をされ、厚生 省としては、各医療機関のホームページは「院内掲示」だと解釈している(の で、医療機関の広告規制にはあたらないと解釈している) しかし、バーチャ ルホスピタル、サイバーホスピタルと言われるものがでてきて、これがこの解 釈に収まらないものではないかという問題が出てきている。あまり度がすぎる と規制の対象になるが、個人的には各医師の良識に任せたいと思っている、と いう話をされました。
 また遠隔医療については、まもなく医師法20条(無診察医療の禁止)につい ての解釈通知が出され、遠隔医療の規制緩和が進むとのことでした。
 さて本題として「総合的な医療情報システムの構築」ということを言われま した。これはレセプト処理の効率化、保険証のICカード化も含む概念のようで す。これは「情報の共有化」「診療診断データベース」「医療資源利用最適化 システム」などを目指すもので「電子カルテは統合情報システムの中心になる のだから、これができなければ統合情報システムができるわけがない」と言わ れました。
「電子カルテができなければ統合情報システムができるわけがない」という同 氏の意見に私はまったく大賛成です。ただ今回の講演では「医療資源の最適化 利用」という言葉がしばしば聞かれたのですが、この問題は非常に微妙なだけ に注意すべきところだと思いました。きちんと押さえないとかつて大問題になっ たように、「厚生省は各医療機関を徹底的に管理したいからオンライン化を進 めたいのか」という誤解につながりかねません。電子カルテ等の情報システム の導入には少なからざる投資が必要と考えられますが、「投資した上に、しめ つけが厳しくなって収入が減るのか?」ということになると、どこの医療機関 も電子カルテを導入しなくなり、電子カルテの時代は来なくなるでしょう。保 険上での扱いは電子カルテを導入していない医療機関と同等であることが保証 されることが第一で、その上で電子カルテ導入による経営効率化のメリットも もたらされる、という具合にならなければならないでしょう。また「この病名 でこの薬を使うと保険が通りませんよ」といった広い意味での診療支援システ ムを電子カルテ内に加えることにより、結果的に保険請求との整合性をクリア にすることが経営効率化につながる、といった方向も考えられるでしょう。
 さて、電子カルテとなるといろいろな意味での「セキュリティ」が問題になっ てくるわけですが、まず平成7,8年度のJAHISの提言より「証拠能力の担保が最 優先ではない」とのことでした。しかし医事紛争では当然問題になるわけです から、電子カルテの真正性、証拠性の確保、すなわち改竄の防止のためには、 まず一人の医師しかいない医療機関では電子認証システムが必要ではないかと いうことを言われ、また複数の医師がいる医療機関ではセキュリティサーバで 対応できるのではないか、ということを言われました。
 またセキュリティとしては、地震などの障害に対してちゃんと復旧できるか といった「可用性」の問題。そしてビュアーによる視えかたの違いで起きてく る(例えば裁判の時、HDDデータのどの部分を取っていくかという)問題とし て「可視性」の問題もあげておられました。
 次に新しい概念のカルテとして、診療支援という意味から「ケアマップディ ター」というものを紹介していました。コンピュータに診療させようという試 みは昔からいろいろとされていますが、あまりうまくいったものがありません。 この原因として診断的治療とか治療的診断など膨大な分岐が人の頭で起こるた め、コンピュータのアルゴリズムの分岐にうまく載らないのだということだそ うです。しかしデシジョンは無限でも、介入できることは少ない、という点に 目をつけて提唱された概念が「ケアマップ」だそうです。これは時間軸と処置 という2つのディメンジョンによる標準的なマップ(テンプレート)を用意し、 これを実際の現場で患者さんの病態に応じてオプティマイズしていく。症状が 変化した場合はまた別の方へ分岐していく。このケアマップへのオプティマイ ズ入力そのものが電子カルテになっていく、というなかなか面白い考え方でし た。またこの集積は病院の運用計画にも応用できる、という効用もあるわけで す。
 またその他のカルテとしは、SGMLをベースにしたカルテの構造分析について も少し触れられておられました。
 そして標準化への国の関与として、1.病名の標準化、2.電子カルテとレセプ ト電算の連携、3.ICカードと電子カルテの連携、などをあげておられました。 考えてみると保険証がICカード化された場合、そのICカードをリーダーに入れ た瞬間に患者さんの名前、住所、生年月日などが入りますし、またICカード側 から見た場合、各地方自治体が試みつつもほとんどうまくいっていないICカー ドへの健康情報入力(例えば特定の薬剤に対するアレルギー、今までかかった ことのある医療機関)などが自動的に解決します。電子カルテの標準化なくし て、ICカードを(狭義の保険証という機能以外に)医療機関で使ってもらうこ とはまず無理だろうと私は考えました。
 最後に同氏は結語として、
1. 医療情報システムの開花期を迎えつつある。
2. 同時に選択の時代を迎えた。
3. 医療と情報を本当に愛する人の英知を。
4. そして医療の向上を。
 という4点をあげられました。このうち「選択の時代を迎えた」という言葉 を、私は非常に厳しい意味に解釈したのですがどうでしょうか。
 すでに電子カルテを商品として売っているメーカーや、なんらかの医療情報 システムを売っているメーカーは、今後の時代の変化に柔軟に対処し、すでに 購入した医療機関をちゃんとサポートできるかどうか?またすでに健康ICカー ドを導入している地方自治体は、もし保険証がICカード化した時代が来た場合、 どういうふうにすりあわせていくのか?ここらへんの将来もいろいろ考えない といけないと思いました。

 国立大蔵病院の開原成允院長は「電子カルテの臨床での利用について」とい う講演をされました。まず「電子カルテができた場合の利用法」ということで、 「患者情報検索」「紹介状」「レセプト作成」「調査協力」「諸統計」「診療 支援」「インフォームドコンセント」「ソフトウェアの共同利用」などの一般 論に触れられました。このうち電子カルテとレセプト処理は非常に近しい関係 にあり、一組で考えるべきだ、と言われました。また「電子カルテに至るまで に解決すべき問題」として「入力」「システムの評価」「標準化」「秘密保持」 「相互信頼関係(面識のない医師へはデータを送りにくい)」などをあげられ ました。後の質問では「病名の標準化」について質問が集中し、この問題がな かなか理屈どおりにいかないことを伺わせました。今後電子カルテとレセプト 処理の結合において、大きな問題になりそうな気がしました。

 (株)伊藤忠テクノサイエンスメディカルシステム部サポートグループの山下 行夫リーダーは「電子カルテシステム(PWS)概要」という講演をされました。 同社はアメリカのWANG社が開発した電子カルテシステムを日本に導入されたと のことで、そのデモンストレーションが見られました。どうしてもWindowsの みに偏りがちな電子カルテの中で、UNIXやX-Windowにも対応している点や、ま たOracleやSQL ServerのようなSQL系データベースを中核に使う点などが、さ すが向こうの製品は基本がしっかりしていると思われました。

 この後の午後の「電子カルテについて」というシンポジウムでも実際に各医 師、各機関が開発された電子カルテのデモンストレーションが続きます。また 機器展示の会場では昨年のCOMINESで話題になった姫路市休日夜間急病センター の電子カルテシステムの展示や、また講演には出てきませんでしたが、三洋が 開発したレセコンと連動できる電子カルテシステムが出展されていました。

 さて午後のシンポジウムでは、まず小田原医師会副会長で浜町小児科医院の 遠藤郁夫院長から「今『電子カルテ』はこんな使い方に」という演題で、光カー ドと結合した電子カルテについて話をされました。このシステムではレセプト とも連動しているとのことでした。
 次に姫路市医師会名誉会長で藤森病院の藤森春樹院長から「耳鼻咽喉科藤森 病院における電子カルテについて」という講演がありました。これは厚生省の 電子カルテのフィールド実験の一つだそうです。診療データのSGML化や、レセ コンとの連動を可能にしていました。
 また蒲田医師会、吉田クリニックの吉田耕院長からは「手作りの電子カルテ」 という演題で、病歴インデックスをHTMLで作り、Web Browserをビュアーとし た電子カルテが紹介されていました。ベースがHTMLのため、他院とpoint to point で相互にカルテが結ばれ読めるそうです。
 全体として私が感じたのは、すでに電子カルテとレセプト処理との連動は常 識となってきているということでした。そしてその途中にSGMLはやはり必須と の感触を得ました。このSGMLが最終的に表示されるときにはHTMLへ自動変換す るような形が一般的になるのかもしれないな、と感じたのでした。
また他院とのpoint to point の接続、という話も、私にはかえって新鮮に 感じられました。というのは、既存のインターネットではセキュリティが低す ぎて、医療機関が既存のインターネットで結ばれるのは危険ではないか、と 感じていたからです。
 これにて第11回COMINESは終了しました。

   安陪隆明