<第10回地域医療情報ネットワークシステム研究会(COMINES)報告>

 7月20〜21日、広島プリンスホテルで開かれた第10回地域医療情報ネットワー クシステム研究会(COMINES)に行きました。その中で興味のあった演題や感想 について述べたいと思います。なおこの報告は私個人の主観、偏見に基づく 個人的な報告書であり、一部誤解や間違い等も含まれているかもしれないことを、 お断りいたします。

 最初の方の挨拶で、日本医師会常任理事の小池昭彦先生が、日本医師会とし てmed.or.jpというドメイン名を取得した、ということを述べられました。そし て各地方医師会がインターネットのドメイン名を取得したい場合は、このサブ ドメイン名にして欲しい、とのことを言われ、現在7つの地方医師会がこのサ ブドメイン名を取得していると言われました。
 また平成10年から遠隔医療の保険適応を目指す、と言われたのも興味深かっ たです。

 今回の研究会で、私が一番印象に残ったのが、厚生省医療技術情報推進室 室長の上田博三先生の御講演でした。

●前ネットワーク時代
  へルスカード
  画像の電子保存の共通規格
●ネットワーク時代
  電子カルテから統合情報システムヘ
  遠隔医療の推進
  標隼化の推進

 というスライドが呈示され、今後はネットワークを重視する方向性を示され ました。
 そして、電子カルテは規制緩和の対象として検討されている、ということも 言われました。カルテ関係の法律というと、医師法第24条で遅滞なく診療録を 記載する義務があるということで、ここらへんが問題になってくるそうです。
 またセキュリティについては、JAHISが電子カルテシステムセキュリティ概念 設計書を平成8年度内に出す予定で、MEDISのHomePageに載るかもしれないとの ことでした

 電子カルテセキュリティの到達点

●証拠能力の担保が最優先ではない。
●電子的署名が必要
●改竄防止のためにも電子的署名が必要
  自己改竄の防止
  第三者機関かハードウェアで実現か
●医療機能停止への対策が必要(私見)
●必要な技術はほぼ存在(私見)

 というスライドが呈示され、自己改竄の問題というのも大きな問題だな、 と感じました。

 また遠隔医療の展望として、

●在宅医療支援 何ができ何ができないか
●遠隔画像診断
●入出力機器等の性能品質保証 力メラ、CRT等

 との展望が示されました。この中で特に「何ができ、何ができないか」が 重要と感じました。上田室長は「褥創の診断くらいはできるのではないか」と 言っておられました。
 私個人もこの部分を煮つめる議論が欠けたまま遠隔医療のイメージばかりが 先行している状態に呆れていましたから、このことはもっともだと思いました。 例えば以前ある新聞が「TV電話で顔色を見ながら診察できるようになる」と書 いていたのですが、カラーCRTの色ってそんなに信頼していいのでしょうか?(^_^;)
 黄色方向に偏っていたら皆黄疸になってしまうではないかと、私は思うので すが(^_^;)

 また再度法律問題に戻って、医師法第20条では自ら診察しないで治療をした り診断書を出したりしてはならないとあり、これに遠隔医療が抵触するのでは ないか、というところが問題なのですが、これに対しては法改正するのではな く、法解釈で対応できるのではないかとのことでした。

 そして、現時点ではアナログ→デジタルへ変換しての画像保存や、非可逆圧 縮での保存は認められていないが、これについても検討中とのことでした。 「裁判のために診療録をとっているのではないので、この方向で進めたい」と いう言葉が印象的でしたね。
 非可逆圧縮に対して前向きな印象を受けましたが、ここらへんは今後重要に なってくると感じました。

 健康力ードは分岐点に来ている、ということで以下のスライドが示されました。

  健康力ードの分岐点
セキュリティ or 内容明示性
データカード or アクセスカード
ボランタリー or コンパルソリー
多目的    or 単目的

 という興味深いものでした。先日もMYネットでこの健康カードの問題を大 講論したばかりですが、私個人は明らかに従来のデータカードとしてのICカー ドの使い方は間違っており、あくまでアクセスカード(IDカード)としての 使用方法に留めるべきだ、と考えています。
 上田室長は「分岐点」という言い方をされておられましたが、私はもう一歩 踏み込むべきと考えています。

 なかなか興味深い話ばかりでした。

 16時からの電子カルテのシンポジウムの方では、姫路市夜間休日急病センタ一 で実際に運用されている電子力ルテのデモンストレーションが興味深かったです。 ほとんどポインティングデバイス(電子ペン)のみで入力できた、というのが すばらしいと感じました。
 レセコンとの連携が問題とのことで、いいかげんスタンドアロンの発想を各メー カーには改めて欲しいところです。そうしなければ来たるべき電子カルテ時代に 生き残れないのではないでしょうか。

 清谷哲朗MEDIS研究開発第2課長から、各国の電子カルテの現状が示されました。 すでにMEDISのHomePageで読んでいたことでしたが、ヨーロッパでは電子カルテは 診療所から始まった、という点がやはり興味深かったです。

 シンポジウムの質問では、私と同じ鳥取県東部医師会情報ネットワーク委員の 中山先生から「病名マスターが手に入らないか?」という質問が出て、「現在、 医事コンピュータ協議会しか手に入らないが、今年度中にMEDISからの公表を考え たい」という内容の返事をいただき期待しました。やはりこれからの情報ネット ワーク時代は、こういったものがどんどんオープンになるべきだと思います。

 このシンポジウムの最後の方で、再び上田厚生省医療技術情報推進室室長が、 今まではネットワーク以前であったが、これからはネットワーク化時代であり、 ネットワークを無視した会社を生き残らせないようにして欲しい、と言われ、 これには思わず拍手でした(^_^;)
 上田先生には懇親会でもっとお話が聞きたかったのですが、他の先生方との 話が途切れず近付けなかったのが残念でした。


 翌21日の東京大学医学部中央医療情報部教授の開原成允先生のお話では、 来年から国立病院等総合情報ネットワークができるということを言われました。 また昨日も小池昭彦先生が少し述べられたことでしが、日本医師会では今年 サーバーを構築し、med.or.jpのドメイン名を取得。来年からHomePageを公開 する予定であること。また名地域医師会にはこのサブドメイン名を取得しても らい、できればメールサーバーを構築してもらいたい、ということを話されま した。
 質問でサーバー構築のための経済的問題が質問されましたが、それに対して、 某医師会では700万円で作れたし、今ならもっと安くできるはずだ、という答が 返って来られたのには、感覚が違うなぁ、と実感しましたね。
 とてもうちでは数百万円の予算は出ないでしょう(^_^;) もっとも来年はOCN が出てくるでしょうし、LINUXも一般的になってきましたから、数十万円でサー バを構築するのは夢ではないと思っていますが(^_^;)
 もし日本医師会でWWWサーバを構築するのなら、例えば各地域医師会用の エリアを提供していただければ、こちらでどんどんHomePageの構築やメンテナン スをするのですが(^_^;)

 なかなか興味深い話を聞くことのできた第10回COMINESでした。

   安陪隆明