<第9回地域医療情報ネットワークシステム研究会(COMINES)報告>
この文章をMYネット医療情報システム研究室、及び R9 Medical Entryへ
書き込みます。なおこの報告は私個人の主観、偏見に基づく個人的な報告書
であり、一部誤解や間違い等も含まれているかもしれないことを、お断りいた
します。
先週の5月20日、21日は仙台へ第9回地域医療情報ネットワーク研究会(COMINES)
に参加しました。今年から鳥取県東部医師会もこの研究会に加わったおかげで、
私はその代表として参加できたわけです。ほぼ100人くらいの参加者でした。
5月20日、一番最初の講演は厚生省健康政策局総務課医療情報技術推進室の
上田博三氏でした。まずこの分野に対する国の予算について説明され、すでに
健康ICカード開発に1億円の予算が決まっていたそうですが、それに加えてさ
らに電子カルテの開発、標準化について3億円、レセプトコンピューターの
標準化について9億円の予算が先日決まった、ということを話されておられま
した。特に強調されていたのが電子カルテの問題でした。ただ単に現在ある
カルテを電子化するのではなくて、オーダリングシステムその他と連携した
システムを開発したいということを強調され、
−−−−−−−− オーダリング −−−−−−−−
| | |
会計−−−−−−−−−電子カルテ−−−−−−−在庫管理
| | | |
−−−−−−薬剤管理−−−−画像情報保管−−−−
というような感じの図を出されておられました。電子カルテを開発するのな
ら、ここまでする必要があるというのは、私も感じていたことで、今後どうな
るか全然わからない分野ですが、ひとまず基本的な考え方は間違っていないな
と思いました。
京都大学医学部医療情報部の高橋隆教授は、B-ISDNを使って京都大学医学部
と大阪大学医学部をつないでの遠隔講義について発表されておられました。
「金があるところはいいよなぁ」と思いつつも(^_^;) 今後の教育の在り方を
考えさせられる内容でした。日本のB-ISDNについては、けいはんなぷらざにあ
る新世代通信網実験協議会(Association of Bloadband-ISDN Business Chance
and Culture Creation : BBCC)が中心になっており、そこの協力を得ての実験
だそうです。
「京大−阪大医学情報ボーダレス化プロジェクト(MEDIKORE-Borderless project)」
と名付けられたこのプロジェクトは156Mbpsの回線とHDTVを使い、「教育、研
究、診療などの分野で従来存在していた情報の壁を取り除き、情報環境を共有
したひとつの共同体を実現し、相互の医学部文化の融合を図ることを目的とし
た」ものだそうです。「情報環境の共有」「Borderless」というのが、今後の
大きなキーワードになるものと感じました。そしてそれが「医学知識の爆発」
「研究の巨大化、先鋭化」「巨大データベースの必要性」とつながっている、
ということを話されておられました。今後のB-ISDNの未来と、それが生み出す
文化、社会を予見させる内容でした。そしてこれは京大と阪大という、日本の
トップレベルでの接続ですが、本当にこういうことが必要なのは田舎の大学な
のではないか?と感じてしまったのでした(^_^;)
5月20日の最後は、「レセコンの課題」というテーマでのシンポジウムでした。
まず仙台市医師会の嘉数研二理事が「レセプト請求システムの磁気メディア
化は避けて通れないだろう」と発言。レセコンの標準化、データの互換性と絡
めて論じられました。ただしレセプト請求の磁気メディア化については、
「機械審査」「審査の画一化」「指導監査の強化」に結び付く恐れがあること
が問題であることを指摘。また「レセコンを導入しない機関に不利益が生じな
いかどうか」も問題であることを指摘されました。
参考資料として厚生省の「紙レセプトから磁気レセプトへ−レセプト電算処
理システム」のパンフレットがついていました。それによると、磁気レセプト
については平成6年度から平成9年度までパイロットスタディ、平成9年度から
都道府県単位での本稼働。そして平成13年度からは「自由届出方式」での
磁気レセプトシステムが本稼働するそうです。
また「メーカーのレセコンに不満を感じ、自分でレセコンを作った」という
(凄い(^_^;) )仙台市医師会医療情報整備実行委員会の宮城島純先生は、
標準化、互換性がないために今のレセコンが結果的に高価になっていることを
指摘。この問題点を解消する意味でレセコンの磁気レセプト化については、あ
る程度認めるも「点数の少ない*の薬剤は、磁気レセプトでも同様の扱いが
必要である」といった条件を上げられておられました。
また福岡市医師会の後藤元継理事は、電子カルテとレセコンの連携への期待
について話をされておられました。
全体的な印象としては、データ互換性、操作の互換性、紙消費の節約、そし
てそれらが生み出すレセコンに絡んだ費用の大幅削減を期待しつつも、逆にそ
れが審査、指導監査の強化につながらないように注意する必要があるという
内容になったかと思います。
5月21日の最初は東北大学医学部医療情報部の大槻昌夫教授がTele-pathology
について講演されました。まず Tele-medicineを
(1) Direct Patient Care (Patient ←→ Doctor)
(2) Tele-consultation (Doctor ←→ Doctor)
(3) Tele-conference (Education)
の3つに分類し、その中のTele-consultationの一つとして、Tele-pathology
を位置付けられておられました。Tele-pathologyについては、すでに鳥取大学
医学部病理学教室の安達先生の講演を聞いたことがあるので、特に目新しいこ
とではなかったのですが、常勤病理医のいない病院で、病理診断までの期間短
縮、術中診断での有効性については、今後のこの分野の伸びを考えさせられる
ものでした。「やがて病理医(そしてCTやMRIを読影する放射線科医)は、
毎日自宅にいながら仕事をする時代になってくるのではないだろうか?」と
いうことを考えさせられる内容でした。
東京大学医学部中央医療情報部の開原成允教授はインターネットについての
一般的な話をされておられました。インターネットと地方医師会については、
今後「広報」「病診連携」「生涯教育」の3つについて大きな影響を持ってく
るであろう、という内容でした。私も同様の考え方を持っていたため、最後に
質問しました。
「私も先生と同様、各医師会レベルでWWWサーバがおけると素晴らしいなと考
えているのですが、その際に現時点で問題となるのは、専用回線の高価なコス
トです。大学は安くて良い回線を使えるのに対し、医師会でこういったことを
しようとすると、高価な民間プロバイダーの回線を借りないといけません。
大学などが使っているような学術関係の回線を医師会も使わせてもらえるよう
な見込というのはあるでしょうか?」と、すっごく厚かましい質問をしてしま
いました(^_^;) これについては、将来、なしくずし的に使えるようになるこ
とが期待できる、というお答でした(^_^;) うーん、そうなって欲しいもので
す(^_^;)
東北大学の西澤潤一総長は「情報化時代と人間」というテーマで講演。その
中でデータベースの重要性について論じられ、「日本ではデータベースが軽視
されすぎている」と嘆かれておられました。また、「データベースではトップ
ランナーは収益が上がるが、セカンド、サードは相手にされない」「技術、知
識の問い合わせは、本当に実力のある人間に集中してくる」ということを主張
され、この言葉が私の心に強く残りました。前日の高橋隆教授は「Borderless」
ということを主張されていたのですが、Borderlessになってしまうと、どんな
人にも問い合わせることができる。結果として、本当に実力のある人だけに問
い合わせが集中して、実力のない人には問い合わせが来なくなってしまう。情
報化時代になってくると、実力のある人はますます大事にされ、逆に実力のな
い人はますます疎んじられる、という時代になってしまうのではないか? と
なかなか厳しい未来を感じてしまったのでした(^_^;) 「自分の実力をどんど
ん磨かなくては」と感じいってしまいました(^_^;)
他にもいろいろと講演、発表があったのですが、自分の心に残ったのはだい
たい上記のような発表でした。なかなか良い勉強になりました。
最後に、私にこのような勉強の機会を与えてくださった鳥取県東部医師会
理事の柿坂紀武先生に深く感謝致します。
安陪隆明